第四百四十七夜『安らぎの一服-pink elephants-』

2023/09/18「音楽」「目薬」「家の中の主人公」ジャンルは「偏愛モノ」


 安楽椅子に座っていたところ、目が覚めた。

 酷く頭が痛い、どうやら薬が切れた様だ。目はゴロゴロするし、喉は渇きで痛い程。俺は目薬を挿して眼球に違和感いわかんをおさらばし、中途半端に残っていた飲みかけの酒で口をうるおし、スプレータイプの口中薬を自分の喉に向って噴霧ふんむした。

 まさしく酒は百役の長。俺の頭脳は速やかに酩酊感に包まれ、頭痛は疾く消えた。俺の世界からわずらわしい振動やけたたましい騒音は聞こえなくなく、視界もクリアになった。見たくないものはへと消え、聞きたくない音は実態じったいを失った様に聞き取れなくなり、家屋を揺らす乗り物の起こすも揺りかごの様に感じられた。

 俺の意識は酒に溶けていき、そしてうれいの無い睡眠へと落ちて行った。


 夢の中で俺はピンクの象の群におそわれていた。連中ははなを俺の胴体に巻き付けて持ち上げたり、鼻をラッパの様に使って騒音を浴びせ聞かせたり、或いは俺の周囲でタップダンスやコサックダンスを踊り狂って地震の様な振動で俺を地べたに釘付けにしたりした。

 こんな悪夢は早々無いが、この時の俺はこの悪夢を夢だと認識にんしき出来ていなかった。だから俺は、ただひたすらピンクの象の群から逃げ惑う以外の事が出来ないでいた。もっとも、これが夢だと気がついていたとしても、地面に付して早く夢から覚めてくれと祈るしか出来ないだろう。


 ピンクの象に鼻で撫でられて目が覚めた。安楽椅子で座っている俺は、象に鼻で撫でまわされている。正直言って鬱陶うっとうしく、不快な事この上ない。

 夢の中でピンクの象に鼻で巻きつかれたり、象の鳴き声を浴びせかけられたり、象のタップダンスに巻き込まれたりするのも、これが原因だと俺は理解した。

「知らん、消え失せろ」

 俺は目薬と酒と口中薬を服用し、目の前の嫌な現実からサヨナラする事にした。俺の頭は速やかに酩酊感に包まれ、目の前の象は曖昧あいまいになって見えなくなった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る