第三百八十夜『時間銀行-making bank-』

2023/07/02「朝」「矛盾」「最悪の時の流れ」ジャンルは「SF」


 あなた、そこのあなた! あなたの顔を見てピンと来ました、お話したいことがあるのですが、よろしいでしょうか? いえ、時間は取らせません。

 私、一種の銀行員の様な物でして……時間銀行と言う部署に勤めております。

 ええ、いぶかしんでくれてかまいません。私共を信用して時間を預けるも、私共を警戒けいかいして利用しないもご自由です。

 私共は皆様から時間を預かり、引き出したくなった時に色を付けて時間を返還する。あるいは、時間を必要としている人間に時間を融資ゆうしする……とまあ、取り扱っているのがお金でなく時間なだけで、普通の銀行と何も変わりません。

 ほら、童話や民話なんかでよくあるじゃありませんか? 悪魔だか死神と取引して寿命を延ばす様な話、私共ははそれなのですよ。

 いえいえ、私共は詐欺師さぎしではありませんし、増してやあなたからお金を取る積もりはありません。私共を詐欺師と言うのならば、それは心無い利用者の中傷行為です。履行りこうや義務を最初から果たす積もりも無くみ倒す気満々の人間による戯言ざれごとです。

 ……どうやらあなたは私の事を、時間銀行の事を本当に信じてないどころか、何故私共があなたの所へ参ったかも分かっていない様ですね。だって、考えてみても下さい。

 だってあなたは今、


 自宅のベッドの上でうたた寝から覚醒すると、嫌な冷や汗をかいている自分に気が付いた。

 いつの間にか携帯端末けいたいたんまつを操作したまま舟をぎ、悪夢を見ていたらしい。夕方に帰宅して仮眠を取ろうと思ったはずだが、外はもうすっかり明け方だった。

 悪夢の中で、俺は悪魔か死神を自称する女と何やら会話を交わしていた気がする。悪魔か死神を自称しているものの現実感があり、そして自分にとってひどく嫌悪感がある内容で、全身に鳥肌が立っているのを感じた。

 俺はベッドから、ゴミぶくろや物だらけで足の踏み場のほとんど無い部屋に降り、何をするでもなく再びベッドに座り込んだ。

「今日も何も出来なかったな……まあ、今日できる事は明日やればいいか……」

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