第三百七十七夜『空の上、雲の中、夢のあと-nobody looks at a rainbow-』

2023/06/28「天」「窓」「残念な城」ジャンルは「ミステリー」


 空の上、雲の中にそれは大きくて立派な空飛ぶ城があった。城の中は外見と違わず大きく立派で、城の住民は交流を喜んでおり、来る者をこばまず、時折にじはしを城から地上へとけて客人の到来を心待ちにしていた。

『こんどはどんなお客さんが来るんだろう?』

 城の住人達はいつの時代も、それは礼をくして来訪者を歓迎した。下界に帰りたくないとなげく人が居れば城に住まわせてやり、自分は貧乏だから返礼が出来ないと嘆く人には沢山たくさんのお土産を持たせ、また城に来たいと言う人には口約こうやくを交わした。

 そんなこんなで、城の住人は窓からお客さんを今か今かと心待ちにしているが、理由は不明だがある時をさかいにお客さんがめっきり減った。何故お客さんが減ったのだろうかと、城の住人達は首をかしげたが、理由はさっぱり分からない。何せ空飛ぶ城は今でも同じ場所に在るし、虹の橋も同じように架けているのである。原因が有るとしたら、城の方ではなくお客さんの方にあるとしか考えられない。

 空飛ぶ城を訪れるお客さんがめっきり減って、幾千年。地上では雨が上がり、子供が窓から空を見ていた。

「ねえお母さん、虹の向こうってどうなってるの? 空の向こうへ歩いて渡って行ける?」

「あれは空気の中の水が光って見えるだけ。空の向こうなんて歩いて行けないし、仮に行っても何も無いわ。バカな事言わないの」

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