第三百七十六夜『上司の影が-President Bowser-』
2023/06/27「花」「歌い手」「最高のトイレ」ジャンルは指定なし
しかし全ての物事には良い面があれば悪い面がある。いや、美点があれば欠点も有ると言うべきか。
例えば、会社に出勤して帰ってと繰り返す途中で
例えば、根本的に自宅で作業をする方が能率も良いと主張する人が居る。勿論この言葉も嘘では無いだろうが、しかし報告や連絡や相談をするにも会社に居た方が良いと反論も出来よう。
これらは別段問題点ではない、むしろ在宅勤務の持つ利点だと言えよう。問題点はここからだ。職場と言うのは集団であり、集団と言うのは即ち厄介者や変人が混ざると言う事でもある。
ここに居るのは、
こんな生毛が在宅勤務の導入を知ると、いの一番に我先に名乗り出た。元より
「ではこのバンドを。君は金属アレルギーの類は無かったな?」
そう言って手渡されたのは、プラスチック
「これは何だ?」
「これは自宅勤務用リングだ。これを着けていないと勤務せずに欠席していたと
その説明を聞くと、与太那は話を真面目に聞いていたのか聞いていないのか、
与太那はまさに有頂天気分だった。何せ首輪をつけてさえいれば、それで働いていると見做されると話されたのだ。これで
早速与太那は首輪をつけて、在宅勤務用のコンピューターの電源を
その時、与太那は首筋に何かを感じて振り返った。非常に表現しにくい感覚だが、強いて言うなら足元で
「わしの
与太那は得も言われぬ感覚を首筋に覚えながら、コンピューターで作業を始める。彼は怠け者だが無能ではなく、むしろ能力そのものは有るのだ。作業自体はする時はする。
(……やっぱり後ろに誰か居る)
平時ならば、
バッと、風が鳴る程の
「さては、この首輪か?」
与太那の考えは
「この首輪を外す訳にもいかないが、誰かに見られている感覚がずっとしているのは気分が悪いな……ここは一杯酒でも飲むか!」
案ずるより産むがやすし、思い立ったが吉日、明日と言う日は決して来ない。与太那は缶入りの酒を一杯飲む事にする。何せ、嫌な事を忘れるために飲む酒程美味しい物なぞ、他には無いのである。そんなこんなで景気よくザルの
「刷井君、昼から飲酒をして居眠りとは言い御身分だな? これから君の事は
与太那はギョッとして椅子から
しかし跳ね起きた場所は自宅。当然弭間部長の姿はそこには無く、かと言ってコンピューターがオンライン会議に参加していた訳でも、オンライン会議を
この首輪に監視カメラでも付いているのか? と
しかし今の悪夢で一つ、分かった事が有る。与太那が感じていた視線は弭間部長の物だ。
厳密には視線は弭間部長の物では無いと考えられる。その根拠として、弭間部長は基本的に社員一人一人を監視カメラで
こんな首輪! そう思って与太那は首輪を外して引き千切ってやりたかったが、この首輪は会社の備品だし、そもそもこの首輪を着けている事が給料の出る条件なのだ。とてもそんな事をする積もりは無い。
「ぐぬぬ……」
翌日、与太那は大人しく出社していた。
「刷井じゃないか! 今日はどうしたんだ? お前の事だから、『わしは自宅勤務の方が性に合っている』とか言って、もう二度と出社しないかと思っていたよ」
意外そうな表情を浮かべた同僚に対し、与太那は返した。
「いや何な、わしは自宅で
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