第三百六十二夜『傘に着る話-the Sting-』
2023/06/11「池」「扉」「見えない殺戮」ジャンルは「大衆小説」
ある所に当たり屋を
当たり屋の男は専ら
最近のターゲットは、
当たり屋の男は傘を振り回して歩いている人物の後ろをつけ回し、坂や階段やエスカレーターに
「うおおおおお! いてえよおおおお! 目が、俺の目があああああ!」
相手がビクッとして立ち止まったらチャンスタイム、
幸か不幸か、大抵の人間は恐怖や罪の意識に弱い、自分が傘の
「ふざけるなよ!
こうも立て続けに怒鳴りつけられ、
仮に相手が
こうして当たり屋の男は捕まる事も無く、食うに困らずに生活をしているのである。
ある日、池のある大きな公園での出来事だった。当たり屋の男は丁度良く傘を振り回して歩いているターゲットを発見し、いつもの様につけ回した。今日のターゲットは銀色の先端部を持つ黒い傘を振り回して歩く、メガネをかけてスーツ姿のビジネスマン風の男性だ。
ターゲットが階段を上り始めた際に、当たり屋の男はしめたと言わんばかりに急接近し、傘の先端部を手で受け止めようとした。
「うおおおおお! いてえよおおおお! 手が……? 俺の手があああああ!?」
当たり屋の男の手に、傘の先端部が突き刺さって貫通していた。ビジネスマン風の男が振った傘が槍の様に彼の手を貫通していたのだ。
「おや、これは失礼。大丈夫ですか?」
当たり屋の男の挙げた叫び声に対し、ビジネスマン風の男は
「ふざけるなっ! 治療費、そうだ
当たり屋の男は普段通りの台詞を、真に迫って言った。何せ左手に傘が突き刺さっているのである。普段の演技の痛がる振りとは比べものにならぬ。
「これは失礼、申し遅れました。
ビジネスマン風の男は悪びれもせず、馬鹿正直に当たり屋の男の要求通りに名刺を渡す。
「おっと、左手に
当たり屋の男が名刺を渡され、虚を突かれた次の
「い、いてえええええ!」
「そんなに痛かったですか? いえすみません、てっきり痛いのは慣れているかと思いました」
当たり屋の男はその場に倒れ込み、ビジネスマン風の男はそんな彼を上から心配そうな目で
「い、いっ、痛いに決まってるだろ!
当たり屋の男が喚き散らすのを聞いて、ビジネスマン風の男はハッとした。まるで今朝自宅の
「そうでした、そうでした。実は
そう言いながらビジネスマン風の男は押し付ける様に再び名刺を手渡す。
「こ、殺し屋……トラオオカミ……?」
「ええ、
そう言うや否や、虎狼痢は当たり屋の男の襟を締め上げる形で持ち上げた。
「な、何をするっ!? 誰か! 助けて! 殺される!」
当たり屋の男にとって幸いな事に、周囲には目撃者がポツリポツリと居た。白昼堂々こんな露骨な殺人が行なわれて、加害者が社会的に無事な訳が無い。
「ふむ、周囲に居る方々はあなたの知人ですか?」
「えっ?」
虎狼痢の言う通り、周囲にポツポツと居る人影は全て当たり屋の男の知人だった。もとい、そこに居たのは彼が食い物にして来たターゲットだった。
「え、あ、え?」
元ターゲット達は
「実は
そう言うと虎狼痢は笑顔のまま、当たり屋の男の眼球に向い、有に眼球を貫通して前頭葉にまで到達しそうな剣呑な傘を突き立てた。
「いや、その、違う、助けて! もう二度とこんな事はしません! だから助けて!」
「何を
そう言うと虎狼痢は当たり屋の男の目に向い、傘を振り下ろした。
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