第三百八夜『騙されやすさを治す方法、教えます-beLIEve-』

2023/04/14「太陽」「告白」「恐怖の中学校」ジャンルは「指定なし」


 ある所にそれはだまされやすい少年が居た。これがただのお人好しならば、一種の愛嬌あいきょうなり美点とされていただろうが、それがそうもいかない。

 「通学路の付近に、学生を対象にした新商品の試食があるぞ!」

 そう言われたら、ホイホイ指定された場所へ向かって行き、その場所に着いてから騙されたことに気が付く。

 「明日は大雨警報が出ているから、きっと学校は休みになるぜ」

 そう言われたらすっかり明日が休みになった気になり、太陽が昇っている事に気が付くのが遅れ、危うく学校に遅刻しかける。

 きっと、群れからはぐれた狼が街に来たぞ! とでも言ったならば、恐怖にられていの一番に猟友会りょうゆうかいに連絡するだろう。

 しかし彼は相手を責める事は多くなかった。嘘を吐く事は悪い事だが、彼は自分が騙されやすいと言う認識が先行していた。ささやかな嘘や噂に踊らされる自分が悪いと言う、自責の念こそが彼にとっての第一印象だったのだ。


 ある日、騙されやすい少年が自分の悩みを打ち明ける形で級友に相談をすると、級友はこころよく応えた。

「よし任せろ。明日の放課後、教室に来てくれ。俺に良いアイディアが有る」

 騙されやすい少年は級友の申し出に嬉しくなり、口約を交わした。彼の性質を揶揄からかう友人は多くとも、彼の悩みに取り合う友人は居なかったのだ。


 そして約束の時刻になり、騙されやすい少年は約束の場所で待っていた。

 彼は約束の時刻まで待ち、約束の時刻になっても待ち、約束の時刻が過ぎても待った。


 結局、待ち人は来なかった。

 来なかったのだが、結果として騙されやすい少年は当初の目的通り、騙されやすい少年ではなくなった。

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