第二百九十六夜『かぜはやまず-the reversed Fool-』

2023/四月一日「北」「狼」「憂鬱な主従関係」ジャンルは「邪道ファンタジー」


 先日は都内で新感染者が千人出たらしい、全くもってなげかわしい。人が大勢罹患りかんする事では無い、私が嘆いているのはワクチンの蔓延まんえんだ。

 私は今流行りのスペイン風邪がいくら人間の間で広まろうが、どうだっていい。何せ私は吸血鬼であって人間ではないのだから、スペイン風邪なんて物には罹らない。人間が罹る風邪はチンパンジーも罹ると言うが、逆に犬や猫は人間と同じ病気に罹らないし、吸血鬼が罹る病気はむしろ狼のそれに近い。

 つまり私としてはスペイン風邪がどれだけ流行ろうが、それ自体はどうでもいい。それよりも問題はワクチンだ、あんな物は百害有って一利無し! なにせワクチンを接種した血液は何時まで経っても薬臭さが抜けず、身体中の血液が循環じゅんかんしきった後でも血管に臭いが残留するのか永遠に薬臭いままだ。

 百害有って一利無しは言い過ぎかも知れないが、別に過言と言う訳でも無い。何せ人間は多い、一昔前にスペイン風邪が流行った時も人間は数を大きく減らしたが、それでも絶滅した訳では無いのだから、結局ワクチンが吸血鬼にもたらすのは薬害以外の何でも無いのだ。

 中には、薬臭い血液であっても血中に薬そのものが残っている訳で無いならば、気にならずに普通に飲める。そう主張する吸血鬼も居るのだが、可哀想に! 連中は本当に美味しい血を飲んだ事が無いに違いない。

 やっこさんらは一度、ワクチンを一度も摂取せっしゅした事も無い嬰児みどりごの血を飲んでみるべきだ。きっと価値観が変わり、目がめた様になるだろう。いいや、薬臭い血を我慢して飲んでいる連中にうまい血を飲ませる義理も道理も無い! そんな機会が有ったら、私が直々に美味い血を一人で飲み干す。奴らはあぶらぎった薬臭い血でも飲んでいろと言う物だ。

 そもそも全部、人間が北風が一吹きしたらそれで体調を崩す様なな生物なのが悪いのだ、薬もワクチンにも一切頼らない時代の人間は例え風邪っ引きでも血が美味しかった。人類はもっと前時代的になるべきなのだ。

 かと言って、私は手をこまねいているだけではない。この打破すべき状況に対する対策はとうに打ってある。

 まず手始めに、薬臭くない人間を見つけ次第魅了みりょうして私の傀儡かいらいとし、次に私の傀儡となった人間共に、他の人間共を啓蒙けいもうする様に指示を出した。

 何せ人間は右にならえと言えば右に倣い、左に倣えと言えば左に倣う風見鶏かざみどりの様な生き物なのだ。声の大きい方にく習性がある生物なぞ、あやつるのは簡単に決まっている。

 次に行なわせたのは医療人への攻撃。大きい声を挙げて略奪や世論操作を行なえば、そちらがにしき御旗みはたと安易に誘導できるだろう。

 無論、私が一人一人を常に緻密ちみつに操作できる訳は無い。しかしあの人間をこう操作し、その人間をそう操作してだなんて、そんな無駄むだな事をする必要は無いし、おおまかに指示を出すだけで問題は無いだろう。

 何せ人間は声が大きい方を正しいと信じる生物なのだ。例え私の傀儡がちょっとおかしな表現や主張を行なったとしても、大きい声を挙げればワクチンが悪だと言う認識はすぐに広がる事だろう。

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