第二百九十一夜『あなたの清き一票を-jury system-』
2023/03/27「楽園」「観覧車」「正義の物語」ジャンルは「サスペンス」
「当チャンネルをご覧の皆さん、こんにちはー! 本日も、どちらの投票ショーが始まりました! 本日のゲストはコチラ!」
暗い部屋の中、カメラの前には司会者風のトークの男と、椅子に縛られて
「はい、コチラのゲストさんのお名前は……そう、
司会者風のトークの男がそう言うと、彼が放送しているチャンネル内のコメント
『人殺し? マジ?』
『
『偉い人が
「おーっと、ゲストの登場にコメント欄も興味が深々だー! ではこれよりゲストの罪状を読み上げ、チャンネルを
もうこうなるとチャンネル内の熱気は、それはもう凄い事となった。東西を問わず死刑の見物は
その間も、椅子に縛り付けられた男は戦々恐々と言った表情でカメラを見ていた。
司会者風のトークの男が読み上げる内容は虎狼痢毒座衛門の行なって来た事を客観的な
「……とまあ、この様に、ある時は未来あり更生の余地の有る少年少女を
司会者風のトークの男に
「では罪状の読み上げも終わったところで、ジャッジの時間にございます! この罪人の命運は皆さまの投票に委ねられました!」
司会者風のトークの男がそう言うと、チャンネルの画面に選択肢が二つ表示される。一つは死刑、二つ目は無罪放免。
リアルタイムで投票が行われ始めて、画面には割合で見た投票数が見える。その
無罪放免に票が入るが、それを上回る様に死刑に票が投じられる。両者追手は追い抜き、追手は追い抜き、結果として死刑が五十一、無罪放免が四十九になった。
「おーっと! 辛くも死刑が無罪放免を上回りました、多数派に誤り無し! 投票数はみんなの総意! 嫌われ者の存在しない理想の世界を! それでは皆様お楽しみのペナルティーの時間でございます!」
そう言って司会者風のトークの男は
トリックも手品も映像の編集も無い、銃弾は眼窩から縛り付けられた男の
「なるほど、これが生放送ですか。これはすごいですね」
暗い部屋の中、急に声がして司会者風のトークの男はギョッとした。この収録を行なっている地下室には他に誰も居ない筈だし、
司会者風のトークの男が声をした方を見ると、そこにはスーツを着てメガネをかけた、典型的ビジネスマンみたいな姿の男が目を細めた顔で横に立っていた。
「あ、あんたは……」
司会者風のトークの男は、今しがた現れた男と椅子に縛り付けられている男の死体を見比べる。両者は顔の造形や体格こそ別人だが、髪型や服装や服飾の
「申し遅れました、
「そうかよ! あんたはまた尻尾切りしたって訳だ!」
司会者風のトークの男はそう憎々し気に叫んで手製の拳銃の引き金を引くが、しかし銃弾は出なかった。
「失礼ですが銃口を拝見したところ、その銃には弾丸が
虎狼痢が指摘は正しかった。それもその筈、司会者風のトークの男が
「それから、尻尾切りと言うのは誤認です。彼はいわゆる、
結局は尻尾切りじゃないか! そう司会者風のトークの男は目で語りながら虎狼痢を
「それで今日は俺を殺しに来たのか?」
「まずは、お話に参りました。皆様ご理解頂けない事も多いのですが、
何が話し合いと合法だ! この人殺しが! 司会者風のトークの男はそう頭の中で考えたが、口には出さなかった。
「それでお話と言うのは何ですか?」
「ええ、まずはあなたのチャンネルのゲストの遺族の方達に頼まれました。あの人を殺して下さいと、そしてあなたは多くの私刑を行なっておられる」
結局お前はただの人殺しじゃないか! そして全て
「違う! 俺は視聴者の投票に従っただけだ! 俺は悪くない! 仮に殺されるとしても、あんたのターゲットは投票者達になる筈だ!」
その言葉に虎狼痢は冷静に返した。
「ええ、存じております。ところでそのチャンネルの登録者数の五十一パーセントは、運営側の人間のアカウントですね? いやはや、まるで株式会社の様だ。だからこそ、結果は毎回五十一パーセントの接戦になっている、そうですね?」
虎狼痢の言葉に司会者風のトークの男は絶句しかけ、そして自分で自分を
「そんな事は知らない! そもそも俺は上に言われて、投票結果に従って
「ええ、あなたがネメアと言う組織の一員で、そう言った指示を受けて動いている事は事前に調べていたので存じております」
「だったら!」
「そして私の依頼主達は、あなたが私刑を楽しんでいる事が許せないと
虎狼痢の言葉は事実だった。司会者風のトークの男は客観的に言って死刑を楽しんでいたし、彼にはその自覚が有った。最早言い逃れが出来ない事実だ。
「待て、それも上からの命令だったんだよ! 楽しそうに殺せって演技指導を受けていたんだ! 連絡員の情報を提供する! だから助けて!」
「すみません、尻尾切りで殺されたと思って諦めて下さい」
そう言って虎狼痢は笑顔のまま、司会者風のトークの男の眼球に、有に顔の裏側まで届きそうな刃物を突き立てた。
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