第二百八十八夜『げに恐ろしい夢-future-』

2023/03/24「闇」「見返り」「禁じられた魔法」ジャンルは「指定なし」


 恐ろしい夢を見た。夢なので曖昧あいまいな部分もあるが、その一方で夢とは思えない鮮明な光景でもあった。


 夢の中で、私は息苦しい満員電車にられていた。気分は憂鬱ゆううつ、体調は慢性的まんせいてきかたこりにさいなまれ、それでいて全身倦怠感けんたいかんを覚えながらり革に手をやりつつ、座席に座る事も出来ずに立っている。

 夢の中でくらい仕事だの通勤つうきんだのとは無縁むえんでいたいが、夢がそれを許してくれない。夢の中の私は、今から職場で無味乾燥むみかんそうな作業をする事も億劫おっくうに思い、業務が終わってからも特に楽しみも無い変わらない毎日を送る事を苦痛に感じ、その様な変わらない毎日をずーっとずーーーっと続いている事実がすっかり嫌になり、ならば自殺でもしてやろうかと布団ふとんの中で漠然ばくぜんと考えるも、その様な決断力や行動力も無く、そのまま眠りに落ちた。

 こうして今目が覚めた訳なのだが、思い返すだけでも頭が痛い。何故夢の中でこの様なつまらぬ現実を見なければいけないのか、夢とはもっと突拍子とっぴょうしが無い物で、狂ったようなバケモノや冒険ぼうけんが出て来るものではないのだろうか? この様な夢こそ悪夢と言う他無いだろう。


 そう頭を痛めている所で目が覚めた。またこの夢だ、事実私の人生は毎日変化が無い鈍色にびいろ様相ようそうで、天候てんこうに例えるなら曇天どんてん、おみくじで例えるならきょう、野球で例えるなら三振凡退さんしんぼんたいと言ったところだが、夢の中で毎日つまらない日常に苛まれている設定なんてまことに頭が痛くなる。

 夢の中で私は平坦へいたんな未知の様な人生に絶望して自殺まで考えていたが、口だけ、いや、口だけですらない頭だけだった。私も勿論自殺する勇気なんて無い。そもそも私はそこまで歳を食ってない、若者と言うには歳だが年配者からは若輩者じゃくはいものと呼ばれる様なよわい、そんな若者が自殺などしてられるものか。

 そんな事よりも今は職場に向わなければ……あの陰鬱いんうつで嫌悪感を覚える満員電車に乗らないといけないと思うと、胃がちぢむ思いだ。


 またあの夢だ。俺は夢の中で疲労困憊ひろうこんぱいしきった状態で満員電車に揺られていて、憂鬱な様子で職場にて仕事を嫌々いやいややっていた。まったく、我ながらつまらない夢を見るものだ、せめて美女とのラブロマンスやアバンチュールと言った夢でも見たらどうだろうか。


 ひどい夢を見た。夢の中で私は少年だったが、自分が成人してくたびれた労働者になる夢を見ると言う内容だ。

 これだけならば、ただのおかしな夢で済むだろう。しかし少年の私が見た夢はまさしく今の私の現実で、少年の私は今の私に落胆らくたんしている様子だった。何せ私だ、少年の私が今の私を見たら落胆すると言うのは私には分かる。

 それよりも酷いのは私の今の人生か、私は自分の人生を何もない砂漠さばくの様な物と認識しており、事実私の人生にはうるおいが無い殺風景な物で、歩いても歩いても何も見えずに様子が変わらない。この様なつまらない人生にはほとほと嫌気が差しているが、かと言って私は何が存在意義なのか分からずに生きている。

 私は生きていない、ただ死んでいないだけだ。


 新居の住宅に、女と男と嬰児みどりごとが居た。二人は夫婦で、妻の腕の中に居るのは生まれて間もない二人の子供だ。

 嬰児は母親の腕の中で幸せそうに眠っていたが、急に大声を挙げて泣き出した。母親は嬰児をなぐさめる様にあやすが、これが中々泣き止まない。

「一体どうしたのかしら?」

「さあね、きっと怖い夢でも見たんじゃないか?」

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