第二百三十五夜『人類の忘れ物-six feet under-』

2023/01/24「地獄」「時間」「伝説の恩返し」ジャンルは「青春モノ」


 穴を掘る。より深く、更に深く、射幸心を杖に穴を掘る。

 かつて都市部だった地域では、ちょっと地下を掘れば遺跡に当たるため大半の連中はそれを嫌っている。都市再開発? の邪魔だとか何とか言って、さして貴重でもなければ学術的価値も全然無い遺跡をみ嫌っている。

 俺も連中の意見に反対する積もりは全く無い。だけど、今の時代にはもう存在しない遺物を掘り当てられるのでは? と、そう考えるとワクワクしてくる。

 だから俺はかつて辺境だった場所で穴を掘る。かつての人達が埋めた、ささやかな遺物が見つかるかも知れないと思うと心臓が熱くなる様な感覚がする。

 今日は何か特別な物が見つかると良いな。と、希望を胸にスコップを振るうと、何か手応えのある物にぶつかった。

 見つかったのは、びんに入った虫の死骸だった。俺はこれを知っている、ニンゲンの生殖器に寄生して数を増やす虫だ。ニンゲンが数を減らしたせいで絶滅ぜつめつしたと言われていて、保存状態が悪いし珍しくもないしで価値は無い。俺はそこらへんに瓶を投げ捨てた。

 俺はめげずに穴を掘る事にした。今の様なささやかな遺物が見つかったと言う事は、この場所、この深さからは似た様な遺物が見つかるかも知れないと言う事だ。

 俺の予想通り、再びスコップから手応えが走った。どうやら今度も遺跡ではないようだ。

 出土したのは簡素な箱だ、中身を空けてみると柔らかくて硬くて暖かい仮面の様な物が入っていた。手に持ってみると、すっと皮膚ひふに引っ付く、どうやらこの仮面はニンゲンのガワになる仮面の様だ。今やそのニンゲンが絶滅していて、ニンゲンが身に着ける仮面がマトモな状態で残っているとは、文字通り皮肉と言うしかない。

 いいね、気分が高揚して来た。これは詳細を調べた場合、学術的価値が皆無かも知れない。しかし過去の遺物が状態を保って、俺の手で掘り起こされたと思うと興奮が収まらず、辛い酒を飲みほした様な気分になる。

 俺は夢とか希望とか情熱みたいな諸々の物を胸に抱えて、更に穴を掘る事にした。するとすぐにスコップに手応えが感じられた。これはいいぞ、今日は俺にとってスマッシュヒットの日かも知れない!

 しかし俺のそんな希望はすぐに打ち砕かれた。掘り当てたのは死体の様な物で、これも俺は知っている。人喰いグールとかの呼称で知られる妖精の一種で、死体の様に見えるし体温も無いが脈動してるし生きている。大半のグールは主食となるニンゲンが数を減らした時期に土の中で仮死状態になる事を選び、結果として文字通り永眠して種として実質的な滅びを迎えてしまった。ニンゲンとの関わり方を変え、他の妖精と同じ様に生き残る事を選んだグールも居るが、俺からしたら生まれもった性質から変性する事が幸せかどうかは分からない。

 俺は土の中で眠っているグールを丁寧ていねいに埋め直し、この場所を掘る事を諦めた。もっと掘れば素敵な遺物が見つかるかもしれないが、種こそ違うものの同じ妖精が仮死状態で居るのを掘り起こしてしまっては目覚めが悪い。

 俺はニンゲンと言うのは聞いた事しかないが、余程弱いか強い生き物だったのだろう。何せ今日掘り起こした遺物が示す様に、ニンゲンは妖精と違って天敵が多いし、その癖妖精と同じ様に余所事をして生きている。

 俺はニンゲンが絶滅した理由をあれこれ想像したが、頭の中で数通りの方法で人間が絶滅するさまを想像したところで飽きてしまい、これをやめた。

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