第二百三十三夜『人の間で食べていく話-feed back-』

2023/01/22「白色」「プレステ」「増える存在」ジャンルは「ホラー」


 酷く腹が減った時に、親の手元から離れた迷子を見かけると無性にさらって食べたくなる。

 勿論そんな事はしない。迷子を攫って食べると仮定して、プリオン異常等のリスクはこの際無視出来るので無視する物としても、もしもその迷子が風邪薬等を飲んでいたら残留薬物による健康被害も考えられる。食肉加工する様の家畜に投薬する場合、投薬してからしばらくの間は食肉として出荷できないと薬事法で定められているのだが、攫った迷子はどうもいかない、迷子を潰して食って薬にあたっても泣き寝入りするしかないのだ。

 それから警察官にも注意しないといけない、なんだかんだでこの国の警察官は優秀で、失態が大きく報じられるから無能な印象が先行しているだけに過ぎない。街中には監視カメラが無い場所はそもそも迷子が滅多に居ないし、迷子が居ると言う事は人が居ると言う訳で誰もがカメラや携帯端末を持ち歩いている時代なのだから、誰にも気づかずに迷子を攫うのは困難を極める。

 誰にも目撃されずに迷子を連れ帰っても、その後も課題が残る。自宅の浴場で潰して肉にするとしよう、自宅に異臭がどうのこうと通報されて、ルミノール検査でもされたら面倒な事になる。イノシシをバラした際の血液だと言い訳をしてもいいが、警察にマークされる事には変わらないので非常に困る。

 コンピューターゲームで人肉を食べると正気を表わす数字が減っていくと言う演出があり、実際クール―病やプリオン異常等を考慮こうりょうすれば妥当だとうとも言える。しかしそんな事は些事さじだ、実際の場合クール―病なんかよりも感染病にかかった肉を食べてしまうリスクを考えたら、そっちの方がずっと重い。現代では訳の分からない流行り病も多くなっているし、それらに対抗する薬も多くなるしで人を取って喰うには困る時代としか言いようが無い。

 しかし日に焼けていない白かったりチョコレート色だったりする迷子を見ると、どうにも食欲や腹の虫がわめきだす。一昔前ならカメラは勿論、抗生物質も街灯も無くて簡単に迷子を攫って食う事が出来たのに口惜しい話だ。

 人の世で食って行くのは実に大変だ、人の世で人を食わせてもらうのはもっと大変だ。

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