第二百十夜『排泄物からなる感染-Leck mich im Arsch-』

2022/12/28「黒色」「猫」「正義のトイレ」ジャンルは「童話」


 汚言症おげんしょう。この地域や国を超えて世界的に有名かつ遍在へんざいしている疾病しっぺいは、一種の感染症と言える。具体的に言うと、クソだのうんこだのと口走ってしまう現象、これは一種の病気と強弁する事が出来るのである。

 今日、神話や昔話や教訓話やコメディから時にはニュースに至るまで、性器や吐瀉物としゃぶつと言った下ネタは度々その存在を目にするものであり、結果として曝露ばくろされた人間の脳には汚言症の兆候が見られる様になる。具体的に言うと、クソクソ言うのである。

 例えば、ニュースで幼児の排泄物はいせつぶつを洗い落としたりしないと言った虐待を行なう子供園が報道されたとしよう。そうした場合、この報道を曝露した人物は記憶にその文章や映像が刻み込まれ、俗に言う引き出しの中身として排泄物を脳裏にしまんこいでしまうのである。それ以前に、多くの人は幼少の頃に何かしらのコミュニティで、うんこがどうだのクソがどうだの、汚言症の根幹こんかんとも言うべき言葉を吐いたり聞いている事だろう。

 これこそが汚言症が一種の感染症と言われている理由である。逆に言えば、温室で一人きりで育てられた人間は、毒づく際に汚言の類を吐く事は無いだろう。そもそも一人きりで育つならば、それはうんちおしっこと言う幼児語を話したり聞く機会が奪われる事に等しく、排泄物と言う呼称を用いるので汚言症に罹患りかんする事はあり得ないのである。

 仮にこれが潔癖けっぺきで上品な教育機関を利用させていても、汚言に曝露し汚言症に罹患する可能性は大いに生じてしまう。先述の様に、神話や昔話や童話や報道にも汚言は存在するのだ。日本の文化に限定しただけでも、猿かに合戦は馬糞ばふんが登場したりしなかったりするし、桃太郎は元々彼の両親がまぐわうシーンが存在していた、神話には裸踊りで知られる女神が居るし、客人に自分の諸々の排泄物を食わせる女神も居る、トイレで気張り過ぎたせいで死んだ戦国武将や、うんこを漏らした事のある戦国武将が存在するのだから教科書だって安全とは言えない。外国に目をやっても、排泄物やセックスに関する話は似た様なもの……いや、一つの国と比べたら世界中の方が汚言に溢れている。かのヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトは『俺の尻をなめろ』と言う楽曲を発表しているし、ゼウスは自分を敬う信徒に尿を飲ませた事も有り、アメリカ大陸にはゲデと言う卑猥ひわい冗談じょうだんを好む黒い肌の神が居て……最早どの国が一番汚いか議論をするのも汚らわしい。

 そもそも人間は母乳を飲んで育ち、クソを垂れ、男女でまぐわい、毒を吐く生物なのである。生活すれば汚言に曝露し、大なり小なり汚言症を罹患する生き物なのだ。糞を垂れたらすぐに隠す、猫の様な生き物でもなければそうはいかない。

 直接的表現を用いるとして、この中にうんこちんこまんこと一度もいずれかも言った事が無い人が居るだろうか? いや、うんこちんこまんこと言うのは少々非紳士的だ。ここはうんこまんこちんこと表現しよう、この方がレディファーストであるため幾分か紳士的と言える。その気が無くとも男尊女卑だんそんじょひだと後ろ指を指される世の中なのだ、うんこまんこちんこはうんこちんこまんこと違ってこの時代でも通用するだろう。

 本題はここからである。ぢつはこの汚言症なる感染症は、重篤じゅうとくな合併症を引き起こす可能性が確認されている。即ち、心因性のストレスである。

 先述のモーツァルトも汚言症の合併症に苦しんでいたと言う説が近年有力視されており、トンカツを生で食べた為にゲロと下痢に苦しみ亡くなっただの、商売敵しょうばいがたきに毒殺されたと言う説は過去の物となっている。彼は汚言を吐かなければ呼吸が止まる奇病―即ち、汚言症と心因性ストレスの合併症―に罹り、その結果体力を消耗しょうもうし、若くして命を落としたのである。

 『俺の尻をなめろ』とはモーツァルトが病に対する抵抗であり、空元気である、そうでなければベッドでクソを垂れた俺の尻を綺麗に舐めろ! などと詩にする理由が無い。彼の良き友であり、素行不良に苦言をていしていたアントニオ・サリエリはモーツァルトの事を思って諫言かんげんしたが、それは結果として彼をいたずらに苦しめるだけであった。

 最後にこの進行した汚言症の恐ろしい所なのだが、モーツァルトの様子からも分かる通り、書く文章にも影響が現れる。最後には常に汚言を喋りつつ記録しなければ呼吸も鼓動もままならなくなり、結果として意識は白濁はくだくし、言葉遣いが尋常でなくなる、ファック。

 そして何よりも恐ろしいのは、汚言症は再三再四書きつづった様に書物や映像で曝露おしっこ進行する。

 願わくば、私のこの提言が然るべき形で伝播でんぱし、この汚言症と言うクソの

ごとき病の根絶されん事を。


 クソが

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