第二百一夜『擬音祭りの金の音-KABOOOOM!-』

2022/12/17「台風」「タライ」「穏やかな城」ジャンルは「偏愛モノ」


 擬音ぎおんである、オノマトペである。

 世の中には小説には絶対に擬音を用いてはいけないという人が居るが、それは極論である。

 確かにオノマトペだけで文章を表現するのは、文章が稚拙化ちせつかするだろう。しかし硬派な文章で知られる作家であっても、時にはオノマトペを多用してコメディ調にしたり、テンポを上げたりすることもある。

 逆に言えば、それらを認識していないと言うのは由々しき問題だと言える。

 カチャン!

 隣の部屋から、ガラスか何かが壊れる様な破砕音はさいおんが響いた。

 ところで今、私はどこかも分からない一面真っ白い部屋の中に居る。

 何となくモデルハウスか、ドラマや映画で稀によく見る脱出ゲームやデスゲームか何かの様な様相だ。

 うまく屋敷やしきの中の謎を解けなければ、処刑人とかブッチャーと呼ばれる存在に包丁やノコギリで殺されてしまうアレだ。

 音がした方へと足を運んでみると、なるほど陶器製とうきせいの様に見える壺が落ちて割れていた。

 ますますサスペンスドラマ染みて来た。

 これがドラマならば、壺の中にカギでも入っているところだろうが、残念ながらなしつぶてだ。

 ならば、この部屋をくまなく探そうと思ったが、その時であった。

 パキン!

 音がした方を見ると、二本一組のアイスキャンディーが中途半端な形で折れて落ちていた。

「なんだ、これは? 日本国内では生産が終了していて、今となっては外国でしか生産していないタイプのアイスキャンディーか……つまりここは日本ではないのか?」

 キンキンキンキン!

 私がこの部屋の所在に考えに思いを馳せていると、金属と金属がぶつかり合う様な、まるで剣戟けんげきの様な音がさらに隣の部屋から聞こえてきたではないか!

 私は今自分が置かれている状況もよく分かっていないのだ、隣の部屋の前へ足を運んで、そこから中の様子をうかがった。

「キンキンキンキン!」

 中には身長一メートル程の緑の服の小さなおっさんが、ふちまで金貨が一杯に入った鍋に、風呂代わりのタライに入った赤ん坊よろしく収まり、キンキンキンキン! と鳴き声を挙げていた。

 なるほど、レプラコーンはキンキンキンキン! と鳴くのか、そしてここは虹の根元に位置している事が分かった。全くもって何の役にも立たない手掛かりが二つも分かったと言えよう!

 どっかーん!

 パパパパパパパパ!

 突如レプラコーンが居る部屋の壁が壊れ、ジープが突っこんで来た。息を継ぐ間も無く、中から機関銃きかんじゅうを構えた男達が降りて来て、一斉掃射いっせいそうしゃをした。機関銃の連射音は連なって、一つの銃声であるかのように聞こえた。私はあれを知っている! グロフスMG42機関銃、通称『ヒットラーの電ノコ』として知られている機関銃だ!

 キンキンキンキン! と鳴き声を挙げていたおっさんはあっという間に血煙ちけむりとなって消えてしまった。あのキンキンキンキン! と鳴き声を挙げていたおっさんがどういう生態の生物かは知らないが、可哀想な事だ。

 どかーーーーーん!

 ばりーん!

 ぽわわわわわわ!

 天が裂け、部屋内の天井が形を残して振って来て、何の音か見当もつかない異音が響き、窓からは晴れ渡った青空が見えていた筈だが部屋中が暗くなった。

 これが青天の霹靂へきれきか、或いは異常気象か天変地異か?

 いや、違う。空飛ぶ円盤が割れた天井から部屋中を覆っており、そこから降りて来た、宇宙服を着た涙的型るいてきがたの頭部を持った人達がポワワ銃でジープに乗った男達を撃ち抜いたのだ! なるほど、ぽわわわわわわ! と言う異音もポワワ銃なら仕方ない、だってポワワ銃はぽわわわわわわ! と音を立てるからポワワ銃なのだ。

 ポワワ銃に対して他に適切てきせつな表現方法が有ると言うのであれば、是非とも御教示ごきょうじ頂きたいものだ。

「ピロピロピロピロ」

 宇宙服を着た人達はジープに乗った男達が動かなくなったのを確認すると、私の存在に気が付いて何やらのどを鳴らして来た。

 何を言っているかは分からないが、どうやら敵意は無い様だ。私は宇宙服の人達が招くような仕草のままに、彼らの空飛ぶ円盤に招待された。

「ピロピロピロピロ、ピロピロピロピロ」

 宇宙服を着た人達が私をどう思っているかは分かり兼ねるが、まあ何とかなるだろう。ここまで一連のハプニングを、擬音を聞く事で切り抜けて来たのだからこれからも何とかなる筈だ。

 ぐるるるるる。

 迫力の無い擬音による表現ばかりだったが、私は銃弾や光線銃が飛び交う鉄火場をあわや回避したのだった。そう安堵あんどをしたら、急に空腹を覚えた。

 ぐるるるるる。

 宇宙服を着た人達もお腹を鳴らした。どうやらこの人達も、空腹を覚えるとお腹が鳴る生物らしい。こう言った特徴とくちょうは地球人も宇宙人も同じらしい。

「ピロピロピロピロ」

 私は案内されるままに食卓らしい机につき、どっと疲れが出て来てうとうとと眠気がいて来た。

 そう言えばキンキンキンキン! と鳴き声を挙げていたおっさんは惜しかった。

 あの量の金貨を見たら銃を構えて奪いたくなる気持ちは分かるだろうが、あんなやり方は本質的に乱暴だ。

 そこに乱入した宇宙服の人達だが、宇宙にも仇討あだうちとか、或いは金本位制きんほんいせいなんて物はあるのだろうか? きっと空腹もあるのだから、そう言った感情もあるのだろう。

 それよりも今は腹が減った。花より団子、色気より食い気、食べ物のうらみは恐ろしいと言う奴だ。ほら、カチャリカチャリとカトラリーを運ぶような音がこっちに向って聞こえて来た。

 私は眠い頭でそう考えながら、意識が混濁こんだくしていった。

 とっぴんぱらりのぷう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る