第百七十一夜『銃を投獄する話-Peacemaker-』
2022/11/10「戦争」「犠牲」「いてつくツンデレ」ジャンルは「指定なし」
ついカッとなって人を撃ち殺してしまった。
このままでは豚箱に数年叩き込まれるか、もしくは終身刑になってしまう。しかし、幸いにも目撃者は居ない。
俺はここで人生を棒に振る訳にはいかない、こうなったら亡命をするとしよう。幸い俺は、生まれてこの方
ここから東に行った隣国は、何でも銃を使った事件が起こると銃に弁護士をつけたり銃を
何とすばらしいバカの国なんだろうか! 俺の様な頭の良い人間が亡命するのに相応しい国ではないか! そんな国はこれまでバカバカしくて行ってみる気など更々無かったが、ほとぼりが冷めるまで隠れるのに丁度いい。しかも両国間は何故だか
こんな事もあろうかと用意しておいた偽のパスポートと愛用の銃を持って入国したが、入国審査はすんなり通り、しかも国内の様子は平和そのものだった。街中に
きっと奴らは銃の事を何も知らない野蛮人なのだ。それだから銃で人を撃ち殺しても銃の方に刑罰を課すし、銃で人を撃っても罪に問われないのだろう。そもそも銃を持っていても、入国審査で問われたのは銃の数だけだった。銃の数なんて死の商人か、テロ行為でもなければ一丁あれば十分だろうに、連中にはそんな事も分からないらしい!
「ではこれで移住手続きは終了です。お疲れ様でした、テオドールさん」
入国審査もガバガバなら、移住手続きもガバガバだった。連中は頭が余程
ついカッとなって人を撃ち殺してしまった。
このままでは拳銃が数年豚箱に叩き込まれるか、もしくは終身刑になってしまう。しかも周囲には目撃者が大勢居る。
事の経緯はこうだ。いつ通ってもずーーーっとゴッホ展をやっている美術館の前で、つまらない事で見知らぬ通行人と口論になって、
因みに俺はゴッホが嫌いだ。あんなおどろおどろしい塗りが好きな人が居ると言うのならば、親の顔が見てみたいと言う話だ。
しかしバカな男だ、ホルスターを下げて拳銃を所持していたのに関わらず、俺が拳銃を抜くのに全く反応をしなかったのだから! 拳銃を抜いたら殺すか殺されるかに決まっているだろうに、拳銃を持っているにも関わらずそれを理解出来ていなかった様子だ。
目撃者が通報したのか、近くに警察が居たのか俺は速やかに警察署まで連行された。俺が以前から聞いていた話によると、このまま書類に署名をさせられて拳銃を取りあげられる事になるらしい。
「あなたの銃の名前は何ですか?」
俺に形ばかりの取り調べをしている警察官がそう尋ねる。名前と言うのは型番とか経口の話だろうか? 前者は答えられないが、後者は答えられる。しかし、それを聞いた二人の警察官は片方は引きつった表情を浮かべ、もう片方は悲しそうな表情を浮かべた。俺は訳が分からないまま取り調べの続きを受け、その末に拳銃とホルスターを取りあげられて警察署から解放された。
警察署から解放された俺は、腰から下げていた拳銃の重さが無くなった違和感を覚え、どこかで拳銃を新しく調達しないといけないな……と
その時銃声が響き、脇腹に激痛が走り、足が崩れた。
「え?」
痛みを
銃声が複数聞こえて、何も聞こえなくなった。
「これは例え話なんだけど、俺が思うに一番やっちゃいけない事って言うのは、下調べもせずに相手が読書家だからと本をプレゼントする事だと思うんだ」
地平線の先まで続く車道に、
「本好きな人に本をあげても、もう持ってるって言われそうだものね。で、それがどうかしたの?」
「今から行く
車を運転する短筒男の言葉に、剣を佩いた女性は
「へえー、分かった! 銃が好きな国だからと言って、銃を売りに行ってもダメって事ね」
「ご名答」
「じゃあじゃあ、これから行く場所で銃とかそう言った物を買い付けて高く売る! そうでしょう?」
剣を佩いた女性の自信満々の言葉に、短筒男はニヤリと笑みを浮かべた。
「いや、それはちょっと違う。勿論美しくて品質のいいホルスター等を買いつけられたら、それはそれでいい。それでいいけど、あの国には独特な風習があって、そこを突く形で行く」
「独特な風習って?」
「ああ、まずあの国では子供から老人に至るまで
短筒男の
「それって、ある意味普通な事じゃないの?」
「ああ、普通と言えば普通。だけど本命はこっからなんだ、あの国では国民皆兵の精神で皆武器を学ぶ
「サムライ? 刀?」
「そう、そのサムライ。それから拳銃には普通銘を入れる風習になっているらしい。拳銃をダメにしたり捨てたりすることは不徳と言うか、ダメ人間のする事だと言う常識が確立されていて、それを強調する目的で成立した風習らしい」
「へえー、だからホルスターがどうのこうの言ってたのね。銃を大事にする人達なら、ホルスターもちゃんとした物を取り扱っているって事ね」
剣を佩いた女性の言葉に、短筒男は我が意を得たりと言った風に笑う。
「そうそう、ただそれだけじゃない。あの国は何でも、人が死ぬ創作物は酷くむごたらしい描写をしないといけないと倫理委員会で決まっているんだ」
「え、何で? あ、分かった! 小さい頃から暴力は痛くてかっこ悪い事だって刷り込み学習させるんでしょ?」
「その通り! 逆に言えば、あの国では不必要な残酷描写のある創作物は一切無いんだ」
自信満々の短筒男が運転する車の荷台には、大量の書物であったり
「ふーん、でもそれって危険な橋じゃないの? ご禁制の商品を持ってきたら逮捕されちゃうよ、逮捕」
「それに関しては大丈夫だ。これは『余所の国では、この様な残酷な描写の作品がありますよ』と言う旨の資料として持って来たと、あっちの好事家に話を着けている。これで問題無くスルーして貰えるはずだ。前回もそうだった」
「うーわ、本当ずる賢い。ヨクバリってどこにでも居るもんだね」
「うるへー! 俺はここで小金持ちになって、ささやかに豪遊するって決めたんだ! ユーリにも付き合ってもらうからな」
そう言って短筒男は剣を佩いた女性に観光地のパンフレットを押し付ける。パンフレットの表紙には、ゴッホの絵が飾られた美術館の写真が載っていた。
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