前のエピソード――第百六十八夜『神秘の缶詰を作ろう！　-make out it-』

2022/11/07「雷」「竜」「伝説の枝」ジャンルは「ギャグコメ」

　みなさんはテスラ缶をご存知だろうか？　そう、皆さんご存知スピリチュアルな力で人体を健康にすると、巷でそう言われているらしい、あのテスラ缶である。

　ではテスラ缶はどの様なカラクリで人体を健康にしている気がするらしいのか？　それは内部に搭載（とうさい）されたパワーストーンの効力を缶の構造が増幅されているらしく、その結果人体が健康になっている気がすると言う専らの評判だ。何故ならテスラ缶のテスラとはかのニコラ･テスラに由来し、即ちテスラコイルの要領でパワーストーンの力を増幅していると知人のそのまた知人から伝え聞いた。

　そう、テスラコイルの如くである。要するに電流には正と不があり、+と-があり、パワーストーンの効能を正しく増やすからこそのテスラ缶であり、素人がテスラ缶を製作しようものならパワーストーンの力がさかしまに働き、災厄を呼ぶ起こす缶になってしまうだろう。

　以上が今日（こんにち）一般に伝わっているテスラ缶の概略（がいりゃく）であるが、これらは百八十度間違った真っ赤な大嘘である！

　テスラ缶とは本来健康グッズではなく、ニコラ･テスラが電流戦争に備えて製作した兵器なのである！　即ち正の電流からなる健康グッズとしてのテスラ缶は副産物であり、本来のテスラ缶は負の電流からなる災厄を呼ぶ呪いの缶詰なのだ！

　そもそもの発想の出発点は古代中国の呪術である蠱毒（こどく）である。一つの容器に多くの種類の異なる毒虫を飼い、生き残った最後の一匹から最強の劇毒を抽出すると言う儀式であり、一説に因るとこの儀式は虫を龍に羽化させる事すら理論上可能だと言う。

　テスラ缶の発想はこれに近しいが、メカニズムは大きく異なる。最初から一種のエネルギー波を人為的に強化し、最強の劇物にすればいい。複数の毒物を混ぜるのに時間をかける必要は無いし、その時間で複数種の毒物を用意する方が建設的だ。

　こうしてテスラコイルの力で負の方向に転換されたパワーストーンの力を利用した呪物が本来のテスラ缶である。

　しかし敵も猿もの引っ掻くもの、相手はかの発明王にして訴訟王エジソンなのである。みなさんもご存知の通り、エジソンは降霊術に精通しており晩年は霊界電話の発明に取り組み、事実地元ではメンロパークのウィザードと呼ばれる高名な魔術師であった。

　事実、テスラ缶による災厄を事前に感知していたエジソンはメンロパーク中に霊的な避雷針を設置、テスラ缶がもたらす負の波を自分の身に及ばない方向へと散らしていたのである。このマイクロウェーブを凶器にした鍔（つば）競り合いの様が、後世かの有名な電流戦争と呼ばれる事になるのは有名な逸話（いつわ）である。

　結果、この回避行動により自分に降りかかる呪いの電波を他者になすりつけ、この一連の行為に正当性があるか否かを裁判所で争う事となったため、エジソンは訴訟王と陰口で呼ばれる様になった。現代となっては、ニコラ･テスラの狙いはこれだったと言うのが通説である。

　これらの逸話からニコラ･テスラが悪人とするのは早計である。何せ先述の様にエジソンは死霊術師であり、更には若年の時には空中浮遊の薬品などのウィッチクラフトを志（こころざ）していた。彼が世界中の植物を収集していた逸話は電球のフィラメントの製作と言う名目で有名だが、それは歴史の闇に葬られた隠れ蓑（みの）でしかない。真実は、彼の目指す理想のウィッチクラフトを完成させるための杖の材料の都合が本意だと言うのが、最新の研究での通説である。

　それだけでなく、エジソンは電気製品のデモンストレーションと言う形で多くの実験動物を殺していた逸話でも有名だ。どちらが邪悪な呪（まじな）い師かは火を見るよりも明らかだろう。

　しかし、彼らの電流戦争の成果物が結果として今日（こんにち）我々の生活を豊かにしている事もまた紛れもない事実であると言えよう。

　ミンメイパブリッシング社刊行『世界の呪術-八百選』より