第百六十二夜『騒音の無い世帯-tinfoil hat-』
2022/10/30「曇り」「ヤカン」「希薄な世界」ジャンルは「童話」
あなたは今の生活に満足していますか?
していないであれば、それはよくない。私共の紹介する新しい物件はいかがですか?
例えばストーカーの無言電話に苛まれていませんか? 迷惑な隣人が大音量で音楽を流していて頭が痛いなんて事は? 電磁波被害でストレスが溜まるなんて症状は?
一つでも当てはまるなら、是非とも御一考をお願いします。こちらの物件、
なので、このマンションでは迷惑電話に頭を悩ませる事は無く、電磁波のせいでストレスに頭を悩ませる事もありません、騒音の類とも無縁です!
あなたもいかがですか? 一切の電波を通さない、本来の人間らしい生活を体験してみませんか?
「何だこれは?」
これ私が住むアパートに
なるほど、現代人のよく口にする様な問題を解決してはいる。しかし、それは別途の問題を誘発しているのではないだろうか? まず第一に、この中では電波を用いた電子機器や家具は一切動かない、職種によっては労働すらままならないだろう。
電波を通さないと言う説明を額面通りに受け取るならば、赤外線で動く家電や防犯装置も動くまい。赤外線も電磁波の一種ではある訳で、更に言うと広告には電磁波を通さないかの様な説明が記されている。ならば赤外線で動く機械も動かないだろう。今は電波機能を搭載した電気ケトルもあるのだ、お湯一つ満足に沸かす事も
騒音被害も無いと言う旨だが、防音がしっかりしていて、音響装置も動かないならば、それも偽りでは無い気がする。
しかし防犯も普及している物は動かないだろう、特別に電磁波や電波を用いない物を備えているかも知れないが、そう言った防犯装置が十全に動くかは想像がつかない。ひょっとしたら
あれこれ考えるまでも無く、現代人の私にとって電磁波の一切通らない住まいなんてものは息苦しくて生活が出来ないだろう。私の身の回りの人間も大半がそうだろう。はっきり言って、その様な住まいをありがたがる人間なんて居るか疑わしいとすら思える。
電磁波がどうの、電波がどうのと言っている声の大きい人間は居るが、最早人間は電磁波無しでは
私はチラシをクシャクシャに手で丸めて、ゴミ箱の中へと放り投げた。
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