第百五十夜『教主様の忘れ物-You cannot serve both God and Mammon-』

2022/10/16「秋」「蜘蛛」「見えない主従関係」ジャンルは「大衆小説」


 ある所にラマモンと言う男が居た。彼はお金が好きで、お金持ちで、何よりお金を稼ぐ事が好きで、もうけたお金を行き場の無い貧乏人に還元し、更にお金儲けをする事を好んでいた。

 彼は貧乏人にお金を還元し、衣食住を与え、役割を与えた。即ち、金貸しに借りる事が出来るだけ借金をさせ、ラマモン氏に譲渡じょうとさせた上で自己破産をさせた。どうせ最初から行き場の無い人間なのだから、自己破産したところで迷惑が及ぶ親族も居ない。連帯保証人も無しに金を貸すマヌケの方が悪いのだ。とは彼の弁である。

 そのお陰で、ラマモン氏は好循環をしている。経済的に崖っぷちな人を助け、衣食住を与えている事も本当ならば、借金で首が回らない人に衣食住を与えている事も本当なのだ。行き場の無い人が居場所を求めてやって来ては、ラマモン氏に現金を献上させられた。生活がどうなるか分からない身分で、一生衣食住を保証してくれるのだ、それくらするだろう。その結果、ラマモン氏は巣に陣取る蜘蛛くもの如く、動かないまま美味い汁をすすった。

 勿論、この一連の流れの内でラマモン氏が社会的に制裁される事はあってはならない。故にラマモン氏は自身を治外法権ないし特権階級にする事にした。ラマモン氏は自身を神とした宗教を興す事にしたのだ。宗教団体ならばそれは治外法権だ、織田信長でもなければ口出しできまい。

 ラマモン教団の教義はシンプルな物だ。例え今生こんじょうで貧乏でも、人間は努力次第で来世ではリッチになれると言う物だ。貧乏人にパンを与える聖者と喧伝けんでんされたラマモン氏は、信者のお陰で増々儲かった。嘘は何も言っていないので誰にもケチはつけられないし、法的手続きだってちゃんとしているので言われる筋合いも無い。

 そんなある日、ラマモン教団で不審火が起こった。不審火と言ったら不審火なのだ、例え思い当たる節が有っても当局が不審火だと判断したのだから不審火に間違いない。きっと芋でも焼いていたら、建物に延焼したんじゃないか? と巷は季節が秋なのをいい事にいい加減な事を言っていた。

 火災で全てが焼け落ちた。防災システムも何故だか働かず、ラマモン氏は命を落とし、彼の財産も全て燃えた。

 地獄の沙汰も金次第とは言うけれど、金が燃え落ちてしまってはどうにもならない。その証拠に、ラマモン氏の幽霊が財布を忘れた。と、ラマモン教団跡に出ると言った話もとんと聞かない。世の中には度々、俺の金や宝に手を出すな! と言いだす幽霊が出るにも関わらずである。

 世論はラマモン教団の火事を話題にしたが、すぐにその話題はラマモン氏の財産へと移った。キャプテンキッドがそうである様に、彼の人となりを知っている人より所在不明宝と言うフレーズの方が人心を惹きつけるのだ。今もラマモン教団の金は地下の金庫にあるに違いない! と、人々はそう噂する。生前と同じく、ラマモン氏の評判は彼の人格ではなく彼の財産にあったのだ。

 例え今生で貧乏でも、人間は努力次第で来世ではリッチになれる。とは彼の弁だが、火災で金も命も焼き落ちた彼が来世でどうなるかは、それこそ神様でもなければ分からない。

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