第百十一夜『宇宙の男-liberation-』

2022/09/01「雲」「残骸」「憂鬱な殺戮」ジャンルは「童話」


 ある日、地球に巨大な未確認飛行物体が接近して来た。つまりはUFO、もっと言うと空飛ぶ円盤である。

 空飛ぶ円盤は郊外に着陸し、中から宇宙人が降りて来た。宇宙人と言っても舞台劇やテレビドラマで見る様な人型の宇宙人で、風刺画やマンガでよく見るタコ型ではなかった。恐らく地球と似たような環境の星から来たのだろう、そうであれば重力も似ているだろうし姿形が似ているのも頷ける。

 これにはなんだなんだと近寄って来た野次馬もビックリ仰天だ。何せ空飛ぶ人間から人間とさほど変わらない宇宙人が降りて来たのだから、やれあれはテレビ番組のやらせだの、やれあれは某国の新型飛行機の実験だの、いやいやあれは宇宙から来た侵略者だの平和の使者だのと喧々諤々けんけんがくがくの大騒ぎだ。

「初めまして地球のみなさん、我々は清浄を好む平和的な種族です。決して地球に剣をもたらす為に来た訳ではなく、本日はプレゼントの為に地球へ参りました」

 野次馬はその言葉は疑い、未知の品物の数々を恐れた。しかし人間は好奇心と本能の生き物である、例えばあの液体は魅力的な外見と匂いをしており、食欲が刺激される事この上無い。

 最初の一人がこれを飲むと、目を見張ってこれは素晴らしい物だと主張し始める。これが中毒性の成分に対する反応だとか、洗脳効果のあるものではなかろうか? と、そう疑う者も居たが、人間他人が美味そうに飲み食いしている姿は大変魅力的に映るのだ。私も、私もと我先にプレゼントを求め始めた。

 ある人は想像もつかない美食を受けとり、ある人は星と星を隔てたどこでも通用する通訳機、ある人は星間飛行も可能なエネルギーの実物と青写真、ある人はどんな怪我も病気も治してしまう医療機器、更には隕石やスペースデブリを安全に跳ね除ける装置に、異星で居住を自動的に組み立てる装置……それこそ人類の夢と言っても過言でないプレゼントの数々がその場にいた全員に配られた。

 しかしプレゼントを貰った人が居れば、文句を言う人も出る。野次馬に成り損なった人々が後から来て、宇宙人に文句を言いだしたのだ。そう言った人々は有り体に言ってブサイクであった、無論顔が醜いのではない。プレゼントを誰かと共有出来ず、それを宇宙人に文句を言いに来るあぶれ者は皆一様に心がブサイクだったのだ。

「自分がプレゼントを貰えなかったのはおかしい!」

「自分がプレゼントを貰えなかったのは責任の放棄に他ならない!」

「自分たちがプレゼントを貰えなかったのは格差社会の形成であり、搾取さくしゅの助長でしかない!」

「自分達がプレゼントを貰えなかったのは新しい環境型ハラスメントだ!」

 しかし、この宇宙人はプレゼントの為に地球に来た清浄を好む平和的な種族と宣言した通り、これを無下に帰そうとはつゆ程も考えなかった。何せ宇宙飛行士とは普通はエリートなのである、ちょっとやそっとで任務に背く様な行動は取り得ない。

「それでは私と共に、我々の母性へお越ししませんか? 心より歓迎しますよ、何せ我々は清浄を好む平和的な種族です故」

 これにはブウブウと不平を言うばかりだったごろつき共もてのひら返して大喜び、喜び勇んで空飛ぶ円盤に乗り込み、空飛ぶ円盤は乗組員達を連れて宙に消えて見えなくなった。


 ところで宇宙人非実在説と言う物がある。その中の一つは、宇宙人は観測できないが故に、宇宙人は実在しないと言う物だ。

 例えば、一人の人間が人生を捧げて八十年間地球から観測や調査を続けても、宇宙人は見つからないし存在しないに等しいと言う訳である。何故なら、地球から八十光年以内に宇宙人は存在しなければ観測も出来ないのだから。

 逆に言えば、地球人より遥かに長寿な宇宙人が存在し、八十年そこらを大した時間で無いと思っていると仮定しよう。この場合、宇宙人から見て地球人は実在する事になり、地球人から見て宇宙人は存在しない事になる。なにせたった八十年と言うちょっとした時間をかけ、たった八十光年先を探せば簡単に地球を観測が出来るのだ。長寿の宇宙人から見たら、地球は実在する事になる。

 私が宇宙人を見たのは、前にも後にもあれが最後だ。地球から宇宙人の住む星はどこにも見えない。

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