第四十七夜『金の卵に関する耐久実験-EAT SHIT! -』

2022/06/26「人間」「サボテン」「おかしなツンデレ」ジャンルは「童話」


 ある所にオオゲツと言う男が居た。オオゲツはお調子者で、おかしい事を好み、根っからの三枚目だが、それに加えて人に好かれる正直者であった。

「これは今考えた作り話なんじゃが……」

 と、滑稽こっけいな語りや独り芝居で村のしゅうを楽しませ、村の集会所やら神社やらの掃除そうじも率先して行う、大層たいそう人の出来た働き者であった。

 そんな訳で村の衆からの評判もよく、オオゲツ殿なら何でもやってのける、オオゲツ殿どのの様な立派な人になるなさいぞ、オオゲツ殿でも舌を出して首を横に振るやろ。と、半ばローカルな慣用句の様ですらあった。

 この話は土着の神様達にも届いており、オオゲツと言う若者は素晴らしいけん我々から褒美ほうびの贈り物をしてやろうぞ。と話が進んだ。

 その夜、オオゲツが家で眠っていると夢の中に土着の神々や先祖の神々が出て来た。これにはさすがのオオゲツもびっくり仰天である。

「あなたがたはなんじゃ?」

「我々はお前の神じゃ。正直な善人なお前に褒美を取らせに来たのじゃ、さあ何でも欲しい物を言うてみろ」

 これにはオオゲツは再びびっくり仰天である、なにせ神々が自分の目の前で期待に目を輝かせているのだ。無論欲しい物は幾らでもある、うまい物が食べたいし、可愛い女房が欲しいし、金もくさるほど欲しい。しかし、いらん事を言って怒らせてはいかんし、つまらない事を言うたら失望させてどうなるか分からん。

 神々が喜ぶ答えとは何か? そう考えたオオゲツの脳内に浮かぶのは天岩戸あまのいわとの一幕、なるほど神々も人の祖先で裸芸は面白おかしい物に違い無いが!

「では神様、俺には何でもケツからひり出せる力を下さい!」

 これを聞いた神々は目を白黒させて大喜び。ドっと笑う者があり、ゲラゲラと笑って苦しむ者があり、感心して誉める者も居れば、手を叩いてたたえる者も居た。

「よろしい、朝起きたらお前はクソの代わりに何でもお望みの品物を尻から出る様になる。神々の言葉は絶対ぞ」


  みょうな夢を見たな。オオゲツはそう思って朝起きてかわやへ向かうと、そこでまたまたびっくり仰天。腸や尻に違和感があるなと思っていると、なんとケツから出て来たのはクソではなく金色の金属ではないか! 厠で踏ん張りながら、自分のケツをまたの下を目でまたぐ形で凝視ぎょうししながら驚天動地きょうてんどうちの心地であった。

「夢けんど夢じゃなかったわ!」


 ここからまた一人で大騒動である。オオゲツは隠し事が出来ない人間だし、隠していてもどうせバレるに決まっていると考えた。しかしクソが黄金に転じるとなると、これで何でも買うといいと言う事だろうか? ケツから何でもひり出せるとなると、家や女の子みたいな代物でも何でも可能なのだろうか? そして、クソが黄金に転じるとなると、これはたくさん飯を食えば、それだけ黄金になるのだろうか?

 そんな事をぐるぐると頭の中で繰り広げ、この事を公表するのは保留にし、オオゲツは自分の何でもひり出せるケツの研究をする事にした。

 なんでもひり出せるケツを調査したところ、ケツからひり出せるのは非動物のみで、一般的に言って非生物で物体ならケツから出た。例えば黄金ではなく真珠や銀貨が欲しいと願えば、それらの代物がケツからひり出た。そして飯をたくさん食えば、食べた分だけケツから金銀財宝をひり出す事が出来た。鉱物だけでなく香木もケツからひり出せたので、やろうと思えば生物も可能じゃった。まさしく何でもひり出せるケツだった訳である!

 これはいい! あれは出来へん、これは出来へん。では話にならん。これだけ自分のケツの性質が分かったのだ、俺は俺のケツの話を村の衆にしても何も問題はないやろ!

 そう考えがまとまったオオゲツは次の村の集りに、自分のケツからひり出した黄金の延べ棒を手に持って参加した。村の衆はオオゲツが嘘を吐けない人間だと知っていたが、半信半疑だった。作り話だと思う者、自分もあやかりたいと思う者、金銀財宝をケツから出してくれと請願せいがんする者、そして村の衆の一人がポツりと言った。

「何でもケツ出せると言うたら、ケツからシャボテンも出せるかいな?」

 これには村の衆は大層反響はんきょうがあり、ケツからシャボテンを出せ! ケツからシャボテンが出せないならオオゲツは嘘つきだ! と、わいのわいのと盛り上がった。

 この日、オオゲツは生まれて初めて他人から嘘つき呼ばわりされたのだった。


 昨日の村の衆会で、オオゲツの心には傷がついたままであった。

「オオゲツはうそばっかりいいくさる? 手の平返しやがって!」

 しかしオオゲツはある事に気が付いた。シャボテンをケツから出して見ろとは言われたが、村には特にシャボテンは生えていなく、仮に生えていても持ち主や所在がはっきりしているだろ。つまり、今からケツからシャボテンをひり出せば俺は嘘つきでなくなるが!

 そうとなれば善は急げ、オオゲツはケツからシャボテンをひり出すべく厠へ向かった。


 と、まあそんなこんなで、阿波あわには日ノ本一のシャボテン園が出来たのだとか。

 園長の男性が言う事には、「このシャボテン村は、私の血のにじむ、生みの苦しみの果てに出来た成果物です!」だとか何とか……

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