第四十夜『本当はホワイ三太郎-Changeling-』

2022/06/19「最初の子供時代」「森」「東」ジャンルは「童話」


 何が有力説で、何が異説かは時代や地域が決定する。今から話すのは三太郎にまつわる異説である。

 金時神社が言う事には以下の通りである。

 彫り物師十兵衛の娘と坂田蔵人の間に生まれた子供が金太郎であり、しかし父親は亡くなり実家の足柄山で育ち、その後源頼光にスカウトされた事で名前を坂田金時と改め、その後多くの武勲を上げる。

 しかし著者の周囲でよく聞くのは以下の通りである。

 これは異説であるが、金太郎は人間ではない。彼の母親は山姥、彼の父親は雷神或いは龍神。その子供も人知及ばぬ怪力で、熊であろうが鬼であるがねじ伏せる。

 なるほど、鬼が居た時代であれば、神仏や妖怪も身近であっただろう。目を三角にして怒るような事でもあるまい、何せ親しみ易いヒーローの出自が神仙の類だの、生まれた時から特別な子供と言う話は古今東西を問わない。今も昔も、洋の東西も何も変わらない。


 金太郎の次に綴るのは浦島太郎。なにせ、彼は彼で現代では遺失した原典が存在するのである。無論、歪曲した説が主流に入れかわる事がある為、原典が語り継がれるべきとは限られない。人類の選択は、それ相応の意味があるのだ。例えば、臭い物に蓋とか。

 亀を助けた浦島太郎だが、行き先は竜宮でなかったと言う話もある。彼は蓬莱に連れられ、そこで亀が正体を現し、そこで乙姫と官能的な性交に満ちた夫婦生活を送る。そして最後、未来の地上へ戻った後玉手箱を空け、その煙を浴びて鶴へ変身するのである。

 なるほど、開けてはいけない玉手箱を託された理由は説明がつく。されど鶴になると理由が分からない。故に歪曲し、編纂され、元の姿は忘れられたのであろう。しかしながら、現世で死を迎えた浦島太郎は鶴に生まれ変わったとも、その魂が鶴の形となって還るべき場所へと飛んでいったとする説もある。人の魂が翼ある生物として描画されるのは美術史では往々にして大いにある。羽根を生やし、輪っかを頭上に浮かべた人間の代わりが鶴と言う訳である。

 異説はここからである。

 浦島効果なる言い回しがある。亜光速で移動をすると時間の遅れが生じ、亜光速で移動している人間は年を取らないのである。即ち蓬莱は亜光速で行かなければならない遠い星にあったのである。筋は通るが、はてさて話としてそれは面白いだろうか?

 どの道乙姫は浦島太郎と永遠暮らす積もりだったが、彼から三行半を渡された形と言うのが原典に則った形になると言えよう。恐るべきは浦島太郎を永遠と引き留めようとした乙姫か、はたまた自ら幸せを破壊した浦島太郎か? しかし神仙の言いつけやタブーを破る寓話は古くから見られ、これもまた古今東西に通じる童話と言えよう。


 金太郎、浦島太郎と来たらトリを務めるのは勿論桃太郎以外あるまい。

 彼もまた、現代では失われた原典があり、そしてそれとは別に私が友人の友人から聞いた異説がある。

 元あった彼の話はこうである。子の居ない老夫婦の元に川の上流から仙桃が流れてきて、これを食べた老夫婦は若返り、子を設けると言う物だ。

 編纂の意図が全く分からない。夫婦で居れば子供が出来るのは普通の範疇であり、その様を表現しなければ編纂の必要も無いだろう。これは私の私見であるが、編纂を行なった人物は英雄には特別な出自が無ければならないと言う信念を持っていたのだろう。それなら理屈も通るし、老人が老人のまま子供を授かるのは、それこそ奇蹟なのだから箔もつくと言う物だ。桃太郎は特別な英雄として作られた結果、桃から生れたのだと言えよう。

 その後桃太郎はお供の動物と共に、面白い面白いと歌いながら残らず鬼を攻め伏せ、鬼を物ともしない鬼の如き活躍をし、それこそ人間の如く鬼の如く、ぶんどり品をほしいままにして鬼ヶ島を後にするのだが、ここからが私が友人の友人から聞いた異説である。


 なんでも鬼ヶ島では、鬼子、即ちこの場合は人間の様な姿の鬼が生まれた場合、それを桃に入れて川から流して追放せよ。と、その様なしきたりがあったとか。

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