第2話【急募】荒れ果てた荒野で食料を確保する方法
朝。
……なんだか清々しくなくなってきちゃったな。起きるか。俺はボロボロの屋根から差し込む光に目をしぱしぱさせながら体を起こした。
ここは滅んだ人間の国の廃城。なんか百年ほど前に魔王様がここを襲って壊滅させたらしい。酒の席で自慢されたから嫌でも覚えてる。ムスト王国っていう国だったようだ。
「朝ご飯は……どうしよう?ここ食料もねえし」
まあ滅んだ国だから城下町に人が居るわけもなく。荒れ果てた荒野と俺がいる廃城一つ以外なーんもない訳よこれが。所持金は勇者パーティーから戴いた金貨15枚と銀貨42枚、それに俺の貯金と合わせてざっと金貨80枚ぐらいか……
「金はあっても使う場所がなきゃ意味ないんだよなぁ」
寝癖のついた頭を掻きながら思考をすっきりさせるために井戸で顔を洗う。井戸とか最低限の施設が生きていたのは良かった……これもなかったらもう俺は泣いて魔王様にグーパンかましに行く所だったぜ。
「はぁ……」
井戸から組んだ水に映る俺の顔を見てため息をつく。ザ・普通って顔だ。眠そうな赤い眼に額から上に生えてる黒い角、魔族の典型的な特徴だ。俺の髪の毛は黒いのでちょっと陰湿そう、と昔の女性魔族達に陰口を聞いたときは陰で泣いた。陰キャだけにね!
「何考えてんだろ俺……」
いかんいかん。朝の清々しい気持ちがもうなくなってしまったじゃないか、もっと別な事を考えよう。
まず目先の問題である食料問題からだ。一旦魔族領に戻って食料を買い込む……のはダメだな、人間ごときに逃げ帰ってきた!とか思われて石投げられそうだ。
じゃあ人間領を襲って強奪……もダメか。人間領を襲ったらそれこそ嬉々として魔王軍が追撃として来るだろうな。
「あれ?詰んでるくね?」
このままだと餓死してしまう未来しか見えない。俺は慌ててどうするか考え始めた。
一番楽なのは人間側に協力者を作る事だが、魔族である俺に協力するようなやつが果たして人間側にいるか……?
テンプレなのは奴隷とか商人だけど、奴隷はまず人間の街に行かないと買えないし、商人はそもそも魔族と取引をするという危険な橋を渡りたくないだろうし金貨80枚程度じゃまず
人間を
「勇者パーティーに取引を持ちかける、かぁ……それしかないよなぁ」
俺は勇者パーティーが来るまでの間、取りあえず廃城の屋根の穴だけは直しておこう、と民家の廃材を探しに荒野へと出かけるのであった……
一方そのころ勇者サイドはというと。
「くっ……!勇者である俺が負けるなんて!」
「いけません勇者様!お体に障ります!」
元ムスト王国の廃城に住み着いた魔族を討伐するために勇者パーティーは廃城へと向かった。
事前情報ではそこには魔族が一人しか居ないとの事だったので、今まで数々の魔族を倒してきた勇者パーティーは快進撃の勢いそのままに、その魔族も倒してしまおうと考えていた……のだが。
「何なんだよあの強さは……」
「アタシの魔法も通用しなかったわ……でたらめよあんな化け物」
快進撃を止められたあげく、圧倒的強さを見せつけられて心が折れていた。
「そういえばあの魔族、指を四本立てていましたね……」
「四日後、ここを襲撃するとか……?」
「次は四人で一対一で戦うとかか……?あんな化け物四人も相手してられんぞ……」
村の民家で沈んだ顔をする勇者パーティー。今までは勇者の聖剣一振りで魔族を倒してきたが、今回の魔族はその聖剣を
さらには意味深なジェスチャー、それは彼らを絶望させるには十分だった。
「あいつ、笑ってやがった……!」
「ええ、まだ本気じゃないというわけね……」
戦士の男と魔法使いの女が下を向く。勇者は元気付かせようと言葉を探すが何も見つからなかった。
自分が仲間の目の前で倒されたのだ。人類の希望が倒されたというのは、彼らにとって十分な衝撃だったであろう。
「私が……私が生け贄となります」
「なっ……!だめだプリシラ!」
そんな中、神官服の女がそう提案してきた。勇者がすぐさま止めようとするが、彼女の意思は硬く、まっすぐに勇者の目を見て言った。
「私たちはこんな所で足止めを喰らっていてはいけないのです。ここで時間を浪費してしまえば、その分魔王の勢力が強くなっていくということ。それならば替えの効く神官である私が足止めし、その間に勇者様達は新たな神官を連れて魔王の討伐へと向かってください」
「プリシラの替えなんて居るはず無いだろ!」
「いいえ勇者様。聖女と呼ばれた私ですが、私以外にも回復に
「そんな……!」
「それに私なら神聖魔法で少しならダメージを与えられるかも知れません。たとえ刺し違えてもあの魔族を打ち倒します!」
神官、いや、プリシラはそういってその場から立ち上がり、勇者パーティーの制止を振り切ってを1人廃城へと駆けていく。
その後ろ姿は小さく震えており、しかしそれ以外に方法もないからと決死の覚悟を決めた彼女を、彼らは止めることが出来なかった。
残された3人は、宿として使わせて貰っている民家で下を向く……彼女が出て行き、誰も言葉を発しない中、勇者が覚悟を決めた顔をしていきなり頭を上げた。
「俺……強くなる」
「ど、どうしたの?」
魔法使いの女が突然そう言った勇者に驚いている中、勇者は続ける。
「俺は強くなる……!あいつを倒してプリシラを救えるようになるまで強く!シモン、エラも下を向いている暇なんて無いぞ!仲間が時間を稼いでくれているんだ、人類の希望である俺たちが立ち止まってどうする!?」
そう勇者が言うと、ハッと戦士のシモンが勇者を見る。
「そう……だよな。うん、そうだ!今度こそ俺がみんなを護ってみせる!そのために強くなろうぜ!」
「そうね。プリシラのためにも」
こうして決意を新たにした3人は、遠くに見える廃城をにらみつけて王国へと帰って行く。王様に今回の失敗と、プリシラの英断を告げに行くために……そして、いつしかあの廃城に住み着く魔族を討伐するために。
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