ココナ村に到着

 そんなやり取りをしていた一行だったが、遠くの方に牧場の柵の様な物が見えてきたので、瑞希はシャオに魔法の使用を止めさせ、ウテナを元の位置に戻していた。


「ミズキ、ミズキ! あれがさっき話に出てきたモームだよ!」


 瑞希がわくわくしながら、馬車から顔を覗かせるとそこには寝転がりながら草を食んでいる。

 牛を小さくしたまま、一回り丸くした様な変わった動物達がいた。


「なんだろう……、牛がニートになったらあんな感じになるんだろうか……」


 モーム達はクッチャクッチャと草を食みながら、牧夫達にデッキブラシの様な物で擦られている。


「面白いだろう? モームはのんびりしてるから滅多な事では走らないんだよ!」


「走らないというか、走れないんじゃないか? モームは食べるために育てられてるのか?」


「食べるというよりかは、モームはああ見えて力持ちだからね! 大量の荷物を運ぶ時なんかはウェリーより便利なんだよ! ココナ村は周りが草原地帯だからモームを育てやすいんだね!」


「ちょっと待て。ウェリーってどんなのだ?」


「そう言えば説明してなかったっけ? ボルボがウェリーだよ」


「(馬とどう違うのかがわからない……)俺の世界にいる馬ってのとそっくりだったから気にしてなかったけど……」


「へぇ~。ミズキの世界のウマってのもやっぱり角があるの? ボルボみたいに人間に飼われてるウェリーは角を切っちゃうんだけど」


「いや~。角はないなぁ」


 ボルボに走らせる馬車が牧場の横を通りすぎる時に、モームをブラシで擦っていた一人の牧夫が声をかけてきた。


「――お~い! あんたらどっから来なさったんなー?」


「僕達は、ジュメールの方からキーリスに商品の仕入れをしに向かっている所でーす!」


「そうかーい! このまま真っ直ぐ言ったら村の入り口さ、あっからー!」


「ありがとうございまーす!」


 ドマルは大きな声で笑顔の牧夫に返事を返した。


「なぁ、ジュメールってのはどの辺にあるんだ?」


「ジュメールはカルアリア大陸の真ん中辺りにあって、王都よりかはもう少し北の方だね。今向かってるのがキーリスで、モノクーン地方の北部では一番大きな街だよ! ココナ村も田舎だけど、そこまで小さいって訳ではないけどね」


「そっかそっか! どんな物が食べれるか楽しみだ!」


「僕にもミズキの料理を食べさせてよ!」


 瑞希達一行は食事を話をしながら道なりに進んで行くと、先程の牧夫が言っていたココナ村の入口に到着した。


「じゃあまずは冒険者ギルドでゴブリン討伐の報告をしに行こうか?」


「俺達は良く分からないから、ドマルに任せるよ」


 シャオは人間の姿のままなのだが、さすがにワンピース姿で裸足だったので、ドマルの馬車にあった子供用の靴と外套を借りて、着させられていた。


「ぐぬぬ……。別に元の姿のままでも良かったのじゃ……」


 シャオは着心地が悪そうに顔をしかめながら、外套をぐいぐいと引っ張っている。


「何言ってんだよ……。ワンピース姿で裸足の女の子を連れた良い歳の男が二人もいたら何事かと思われるだろ? 俺はシャオと一緒に食事をしたいんだから我慢してくれ。それにシャオに似合ってて可愛いぞ?」


 シャオは瑞希の言葉を聞いて、不満そうにしていた仕草を止め、腕を組んで顔を背けた。


「ま、まぁたまにはこんな格好をしても良いのじゃ」


「あはは。売れ残りがあってよかったよ! ミズキの分もあれば良かったんだけど、大人の外套は全部売れちゃったんだよね」


「元からココナ村で買う予定だったんだし、別に構わないよ。シャオの魔法のおかげで車内は温かかったしな」


「それなら良かった! おっと、冒険者ギルドはここだね」


 ドマルが示した場所には小さ目のレンガ造りの建物に、剣を持った一人の男の像が立っていた。

 ドマル達は馬車を止め、入口の方に向かうのであった。


「じゃあ行こっか」


 ドマルはゴブリンの耳が入った袋を手に持ち、入口の扉に手をかけようとしたのだが……。


「――ゴブリンの討伐はいつになったら報告に来るんじゃ!?」


 ギルド内から思わず耳を塞ぎたくなるような怒声が聞こえてきた。

 瑞希達はそっと扉を開け中の様子を伺う。


「ですから! こんな田舎の方にわざわざゴブリンを狩りに来る冒険者がいないんですよ!」


「じゃったらキーリスの方から呼べばいいじゃろうが!?」


 金髪で眼鏡をかけた20代後半ぐらいの女性と、短髪で白髪の頑固そうな爺さんが言い争っている。


「ゴブリン数匹を狩れるのが銅級の冒険者ですが! ゴブリンの群れともなると黒鉄級の冒険者が必要なんです! そしてそんな冒険者はこんな安さではこの村まで動いてくれません!」


「それをどうにかするのが嬢ちゃんの仕事じゃろう!」


 今にも取っ組み合いの喧嘩にでもなりそうな雰囲気にドマルは完全に尻込みをしていた。

 その様子を見ていた瑞希がドマルから袋を受け取ると二人に向かって歩み始めた。


「あの~……」


 二人は瑞希に目もくれず激しく言い争いを続けている。


「あのー!」


「「なんですか!?」「なんじゃい!?」」


 まるでステレオの様に二人が同時に声を荒げてこちらに反応する。


「ゴブリン討伐の報告に来ました」


「「――……へ?」」


 二人は瑞希の言葉に狐につままれた様な顔をするのであった――。

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