イラスト付☆サルディニアの蛇

愛LOVEルピア☆ミ

第1話 皇帝と少女と(ここだけ一人称)


 城では下心丸出しの奴らばかりでつまらん。雑多な酒場に居る方が万倍ましだ。


「はいにーさん、エールだよ!」


 幻術で顔を変えているので誰一人気づきゃしない、宮じゃ魔導師たちが変な顔をするけどな。魔法を使っていて、自分たち宮廷魔導士団の一員でなければ、俺だという消去法で気づくからだ。


 安っぽい味がするエール、これでも心が満足するんだよ。俺の趣味じゃない、けれどもこれを飲むとあの人のことが浮かぶから。


「……カタリナ」


 何度目だろうか、ここに来てこう呟いて何年も経つ。いつまでたっても未練を断ち切れないような弱い男じゃないだろアドラー! こんな皇帝は願い下げだって、誰かが立ち向かって来れば相手をしてやるってのに、どいつもこいつもヘラヘラしたり俯くだけで挑戦すらしてこねぇ。


 何がサルディニア帝国だよ、こんな国だけ残ってどうしろってんだ。


 ガタン!


 ジョッキをテーブルに叩きつけるようにして、反対の手で頭を押さえる。

 なんだこれは! 魔法か? いやレジストはしてない、魔法防御を抜かれてないぞ。だが異常がある、神聖魔法か? 頭が痛い、どういうことだ!


 神の奇跡は絶大だ、この俺だってどうにもできないことがある。だが一人を狙って何かをするようなものはないはずだ、誰の仕業だこれは。酒場を見回すがこれといって気になる姿はない。


 セルフチェックで魔力の流出が激しいと警告がある、どうなってる? 魔石を潰して補充をすると少しだけ頭痛が和らぐ、それでも変わらずに減り続けているな。場所を変えよう、ここは危険だ。


「勘定はここに置くぞ」


 適当に銀貨を数枚載せて置いて外に出る。後をつけられている感じはないが、これはどういうことだ魔力が物凄い勢いで失われていく。もう一つ魔石を潰したが長くは持たんぞ。城まで転移するか。軽い気持ちで転移魔法を詠唱省略で行使する、ところが何も起こらなかった。


「――妨害魔法か!」


 転移を阻害する結界が施されているようで、ここから抜け出すことが出来ない。それらしい姿はどこにも見えない、これはかなり周到に計画されたものだ!


 テレパスも阻害されてる、これでは魔導士団と通信も出来ん。俺がすべきはここを全速力で離れることだ。往来の馬車を引いている馬の馬具を問答無用で破壊し、背に跨ると腹を蹴る。


「う、馬泥棒!」


 御者が叫ぶが完全に無視して市中を騎乗で駆け抜けようとした。もう魔石は無い、体力を魔力に変換して気絶は避けねば。鞍が無くても何とか振り落とされることはないが、城につくまで魔力が持つかは微妙だぞ。


 正門が見える位置まで来ると意識がもうろうとして来た。これ以上体力を変換するわけにもいかない、ここまでか。最後に見たのは、馬のたてがみに突っ伏すところだったな。



 今の感覚はなにかしら。

 喫茶店で紅茶を傾けていたのに、まさか禁呪にお目にかかるなんてね。このあたしから魔力を引っ張るだなんて大したものよ。でもまあ今のあたしじゃ仕方ないけれど。


 それにしてもこの帝都サルディア全体を覆うような禁呪、構築するまでに五年は掛かるわよ。よくもまあ気づかれずにやったって褒めてあげたいわ。

 ……この魔力、アドラーにぶつけるためのものなのね。さすがのあの子だって、帝都全体の人間を相手にしたら魔力切れを起こすわよ。


「ふふ、あの子って、今はもう立派になっているでしょうに。二十五歳よね、早く妃の一人もとればいいのに」


 窓ガラスに映る顔がどうにも見慣れない。何せこの方百年以上も付き合ってきた顔と違うから。死んだって思ってたけど、どうして転生なんてしたのかしらね。死んだのは死んだから転生なんだけど。


 この身体の自我も残ってたし、憑依の方が正しいのかな。あたしだって初めてのことだからもう五年も様子見をしているけれど、これといって拒絶反応もないしどうなのかなってね。ドロシアってことでいいんだけれど、まだ慣れないわね。


 それにしても魔力が弱い身体になったものだわ、これじゃあエクストラファイアストームの一つも放ったらおしまいよ。使うような場面はこの五年間一度も無かったんだけど、魔法は今まで通り行使出来るはずよ。試さなくてもあれだけずっと付き合ってきたんですもの。


「さて、この禁呪を使ったということは何かが起こるわけね。行きますかお城に」


 あたしの可愛い生徒を的にしたのは誰かしらね。このひらひら格好じゃ気分が出ないわ、出来るかしらアレが。でも魔力の質は一緒のはず。


「インスタント・イクイップメント」


 白のチュニックにブーツ、そこに水色の外套が突如現れる。うん、大丈夫みたい。禁呪内じゃ転移も出来ないし、お城までそこそこ歩くわね、仕方ないけど。まあすぐに何か起きることも無いでしょう、夜が明けて騒乱が広まる前によ。仕掛けるにしてもきっと満月の夜、魔力が最大に強くなる深夜三時よ。


 そんな時間にドロシアが歩き回るのは良くないんだけれど、どうしようかしら。フェート・フィアダの霧で姿を隠すのが丁度良いかな。夜霧か、ちょっと洒落てる響きよね。

https://kakuyomu.jp/users/miraukakka/news/16817139554709657354(ドロシア)

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