第47話 魔力トレーニング(下)

 最初は順調だった。

 魔法を撃つたびに、できる穴は小さくなっていく。


 5メートルが4メートルに。

 4メートルが3メートルに。

 3メートルが2メートルに。


 穴を小さくできたら、次は射程を短くしていく。


 試行錯誤しながら、少しずつ出力を下げる方法を身に着けていく。

 ただ、一定のところまでいくとで限界を感じた。

 そこから何度か繰り返したが、それ以上は改良できなくなった。


 最終的には高さ500メートルまで撃ち上げて、直径1メートル深さ50センチの穴まで抑えることが限界だった。


 これに分裂を加えてみる。

 同じく500メートルまで上げ、魔弾を二百個に分裂させる。

 出来たのは直径10センチほどの二百個の穴。

 体感だが消費魔力と出力を5パーセントほど減らせるようになった。


 うん、これくらいできれば実用上まったく問題ない――屋外ならば。


 もちろん、この方法はダンジョンで使えない。

 ダンジョンだと天井をぶち抜くこと必至だ。

 ダンジョン内で使用できるまでは、まだまだ先が遠そうだ……。


「ただいま〜」


 トレーニングに集中すること2時間。

 ディズが戻ってきた。


「おか、えりっ。どう……だっ、た?」

「ダメだね〜。EランクやDランクばっかり」


 俺たちがここサスの森を目指した目的。

 もちろん、ひとつ目は俺の魔力トレーニング。

 そして、もうひとつ――格上モンスター狩りだ。


 格上モンスターを狩る理由は3つある。


 ひとつ目はお金稼ぎ。

 Eランク程度のモンスターはいくら狩ったところで大した額にはならない。

 今はまだ伯爵資金で余裕があるとはいえ、それもいつまでも続くわけではない。

 とくに、美味しい料理とお酒はお金がかかる。

 ディズに教わり、美食と美酒の味を知ってしまった俺は今さら門番時代の食事には戻れない。

 毎日、美味しいものを食べるには、それなりに稼ぐ必要があるのだ。


 ふたつ目は冒険者ランクを上げるため。

 はっきり言って、俺もディズも実力とランクが見合っていない。

 昨日のダンジョン攻略はただの作業だった。

 冒険者ランクが上がれば、それだけ受けられる依頼や入れるダンジョンも増え、難易度も上昇する。

 作業ではなく、冒険をするためには、ランクを上げるのが必須だ。


 ただ、普通にEランク依頼をちまちまこなしていても、ランクはなかなか上がらない。

 そこで、格上モンスターを狩って俺たちの実力を認めさせ、さっさとランクを上げてもらうのだ。


 あまり褒められた方法ではない。

 『冒険者入門』にも、自分のランク以上のモンスターとは戦うなと書かれている。

 ギルドからも注意されるだろう。

 だけど、ディズが「へいき、へいき」と言っているんだ。

 きっとなんとかなるんだろう。


 最後の、そして、もっとも大きな理由は――ディズのストレス発散だ。

 ディズは見かけによらず、戦闘が大好きだ。

 それも、強い相手とのヒリヒリするような戦闘が。

 聖教会から逃げ出してきてから、しばらくまともな戦闘はしていない。

 強いモンスターと戦いたくてウズウズしているのだ。


 お金稼ぎとか、ランク上げとか、ディズを見ているとそれは後付けの理由な気がする。

 単に、戦いたいだけみたいだ。


 だが、狩りから帰ってきたディズは不満そうな顔だった。

 多少奥まで踏み入ったとは言え、中心まではまだ5キロ近くある。

 ディズが期待しているような大物モンスターと出会うためには、さらに奥まで行く必要があるみたいだ。

 雑魚モンスターばかりで、余計にフラストレーションが溜まったのだろう。


「午後はもっと奥まで行ってみるよっ」


 簡単な昼食を済ませると、ディズはまた狩りに戻っていった。

 よしっ、俺もトレーニング頑張るぞっ!


   ◇◆◇◆◇◆◇


 ――夕方が近づいてきた頃、ディズが戻ってきた。


「たっだいま〜〜」


 昼に比べてごきげんな様子のディズ。

 きっと満足いくような相手を狩れたのだろう。


「……どう、だっ……た?」

「うんっ、ばっちりっ!」


 ディズはVサインを笑顔の横に添える。

 そして、周囲を見回すと――。


「うわぁ、穴ボコだらけねっ」

「う、ん」


 今日一日、【すべてを穿つオムニス・カウウス】を撃ちまくったせいで、辺りには大きなものから小さなものものまで、無数の穴ができている。

 この場所じゃなかったら、大騒ぎになるところだ。


「それで、ロイルの方はどうだった? 腕輪は?」

「いっかい、で……こわれ、た」

「あらら〜。まあ、しょうがないか。そうなるかなって思ってたし」

「うっ……う、ん」

「その調子だと、いまいちだったみたいね」

「う、ん」

「でも、まだ初日だから、焦らなくていいからね。帰り道にどんな調子だったか聞かせてよ」

「う、ん」


 結局、午後もトレーニングに打ち込んだが、満足する結果は得られなかった。

 でも、ディズの言う通りだ。

 最初からそう、上手くいくとは思っていない。

 焦らずじっくりと取り組んでいこう。


 その後、今日のトレーニングについて話しながら、俺たちは街に帰還した――。





   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】

 次回――『予兆』

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