第15話 除霊(上)

 三人でいわくつき物件へと歩いて向かう。


「いやあ、物件自体はいいモノなんですよ〜。立地良し、広さバッチリ、間取りも最高なんですよ〜」


 不動産屋のいかがわしい店員は、並んで歩くディズに向かって、畳みかけるように話し続ける。


 一度だけ、一歩後ろを歩く俺と視線があったが、怯えきった表情を浮かべ、それ以来、俺の方を向くことはなかった。

 まるで、話に集中することで、俺という存在を忘れようとしているみたいだ。

 門番時代にもよくあったことなので、そういうものだと気にしない。

 子どもに泣かれたときはちょっと傷ついたけど……。


 それにしても、よく回る舌だ。

 羨ましい。

 ディズとは別の方向性だけど、この男のコミュ力もなかなかのものだ。

 まあ、これくらいないと商売人としてはやっていけないのだろう。

 俺には絶対に無理な職業だ。


「こちらでございます」


 冒険者ギルドに近い立地。

 立派な外観。

 二人で暮らすには大きすぎる一軒家。

 外から見る限りでも、5、6人の冒険者パーティーが余裕で生活できそうだ。


 想像を遥かに上回る優良物件だった。

 これが月6万で借りれるのか……。


 いや、まだ早い。

 ディズが除霊に成功してからだ。

 彼女の腕次第だが、ディズは交渉前から自信満々だった。

 レイスといえばそれなりに高位の悪霊だったはずだが……彼女にとってはどうってことがないのだろう。

 さて、お手並み拝見だ。


「私は敷地に入りませんので、あとはよろしくお願いします」


 店員の顔からは「死んでも入りません」との意志が伝わってくる。

 たしかに、彼の態度もうなずける。

 素人の俺でもわかるくらい、敷地全体を邪悪な魔力が覆っている。

 きっと一歩足でもを踏み入れれば、レイスが襲い掛かってくるのだろう。


 だが、隣を見れば――。

 そこには余裕綽々しゃくしゃくで腕組みをしているディズの姿。

 頼もしいことこの上ない。


 しかし……しばらく待ってみたが、彼女はなにかをする様子もない。

 それどころか、俺の方を見て微笑んでいる。

 コミュ障の俺にはその笑みの意図を察することはできなかった。


「どう……した?」

「ん?」

「やら……な、いのか?」

「えっ?」

「いっ、いや…………除霊……」

「あっ? もしかして、私が除霊すると勘違いしてた?」

「……違う、のか?」

「違うよー。だって、私、除霊できないもん」

「はっ、はい?」

「言ったでしょ、神聖魔法、使えないって」

「…………そう……だった……」


 ディズは神聖魔法を使えなくて破門になったんだった……。


「じゃ、あ……どう、して?」

「ロイルならできるでしょ?」

「俺?」

「うん」


 俺に……出来る……のか?


「あっ、ごめん。無理だった?」

「いっ…………」

「気にしないで。ハイオーク三体を軽々だったから、レイスくらい訳ないかなって……勝手に思い込んでた私が悪いわ。ほんと、ゴメンね」


 除霊は試したことがないが……。


 ディズは申し訳なさそうな目で俺を見上げている。

 50センチ以上の身長差があるので、首が痛くならないか心配だ。

 そんな目で見られたら……頑張るしかないじゃないかっ!


「やって…………みる」

「ホントっ? できなくてもいいから、無理しないでね」

「あっ…………あ、あ…………だいじょ、ぶ」


 味方の期待に応え、トラブルを解決する――それが主人公だっ!


 よし、なんとか考えてみよう。


 まずは、手持ちの魔法でなんとかできるかだが……。

 最初に浮かんだのは、森でハイオークを倒した【すべてを穿つオムニス・カウウス】だ。

 これなら、レイスくらい一撃だ。

 ただ、問題なのは……家ごとふっ飛ばしてしまうこと。


 「倒したよっ。家もなくなったけどねっ!」じゃあ、本末転倒だ。


 うーん、他にいい魔法もないしなあ……。

 脳内を検索してみても、除霊に使えそうな魔法は思いつかない。

 いろいろな職業の人が門をくぐるのを見てきたが、お化けは通らなかったもんなあ。

 仕方ない、この場で、適切な魔法を作るしかないな。


 屋敷を覆う邪悪な魔力を観察する。

 この魔力を生み出しているのは、問題になっているレイスだろう。


「――【世界を覆う見えざる手ムンドゥス・コゥヴェ・インヴィジ・マヌス】」


 たしかに、屋敷の中にそれらしき霊体がひとつ居座っている。

 うん、コイツだな。

 後はどうやって成仏させるかだが……。


 この邪悪な魔力の発生源がレイスなわけだから……。

 邪悪な魔力を払うように魔力を調整チューニングして……。

 それで本体ごとはらっちゃえばいいな。


 よし、方向性は定まった。

 こんな感じで、ああやって、こうすればいいかな?

 うん。たぶん大丈夫だろう。


 さて、使うべき魔法は決まった。

 ただ、大きな問題がひとつ残っている。


 それは――。






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】

 次回――『除霊(下)』

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