<秘密> 16

十二月十四日。木曜日。

この日も茜は学校を休んだ。

朝礼でナカマイ先生が

「茜ちゃんはまだ熱が引かないので、

 今日もお休みです」

と説明した。


そして昼休み。

俺は翔太からまたベランダに連れ出された。

「どうしたんだよ、翔太。

 今日はドッジボールだろ?

 皆急いでグランドにいったぞ」

教室には相馬と池田が残っていた。

「・・実は茜ちゃんのことなんだけど」

翔太から話がある時はいつも茜のことだった。

そしてそれは翔太が茜のことを気にかけている

証拠でもある。

「・・昨日、茜ちゃんの家に行ったんだ」

翔太は認めないかもしれないが、

きっと翔太はまだ茜のことが好きなのだ。

好きでもない女の子のことで

頭を悩ませる人間はいない。

「お見舞いか?」

翔太は頷くと徐に口を開いた。



黄昏時。

翔太は一人、茜の家を目指して小道を歩いていた。

遠くから聞こえてくるピアノの音は

茜の家に近づくにつれて

徐々に大きくなっていった。


ピアノの音は茜の家から聞こえていた。

門の前で翔太は少し迷った。

意を決して門を入ると、

玄関へ行かずに庭へ回った。

そして翔太は庭に面した窓から

ピアノを弾いている茜の姿を見た。



「ね、どう思う?あっくん」

翔太はピアノを弾いていた茜を見て

風邪はすっかり治ったと思ったらしい。

にもかかわらず、

茜は今日も学校を休んでいる。

翔太はそこに引っかかっているのだ。


「茜は何て言ってたんだ?」

「・・じ、実は茜ちゃんには会わずに帰ったんだ」

翔太はバツが悪そうに俯いた。

「なぁ、翔太。もしかして茜と喧嘩でもしたか?」

俺の言葉に翔太は力なく首を振った。

「洋は何か言ってたか?」

「うん。

 『この時期の風邪は拗らせると長いからな』

 だって。

 呑気なんだよ、洋は」

翔太は口を尖らせた。

「翔太の考えすぎじゃないか?

 俺も洋の意見に賛成だけどな。

 翔太が見たその時、

 たまたま気分転換に

 ピアノを弾いてたんじゃないのか?

 学校を休んでるからといって一日中、

 寝てる必要もないだろ?」

「その後、ピアノの先生の姿も見えたんだよ。

 風邪ならレッスンもお休みのはずだよ」

翔太の言い分は最もだった。

しかしその時間には治っていた風邪が、

夜になってふたたびぶり返したとも考えられる。

現に茜は学校を休んでいる。

「翔太が心配するのもわかるけどさ、

 明日まで待ってみよう。

 もし明日も茜が休んだら

 その時は俺が様子を見てくるよ」

「・・わかった。あっくんがそう言うなら」

翔太はまだ何か言いたそうだったが、

最終的に首を縦に振った。

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