<果報> 5

「運動会が終わってから

 少しして学校に変な噂が広まったでしょう?

 覚えてる?」

俺が流した最初の噂のことだ。


・葉山実果は中之島小学校の教師に殺された


「私達教師の誰もが悪質な噂と思っていたけど、

 彼だけは違った。

 彼はその噂に少なからず真実が隠されている

 と考えていたの」

ナカマイ先生の声が遠くから聞こえる。

悪い夢を見ているようだった。

「そして彼が亡くなったあの日。

 昼休みの後で、彼は私に言ったの。

 今日、

 葉山さんの死の真相がわかるかもしれないって」

彼が亡くなったという言葉のところで一瞬、

ナカマイ先生の声が震えた。

ナカマイ先生は詳しく聞こうとしたが、

ボス猿はすべてがわかってから話す

と言っただけだった。

「でも結局、

 それが彼と交わした最期の言葉になって・・」

そこでナカマイ先生は目を拭った。


眩暈がした。

俺は倒れそうになるのを足に力を入れて

踏ん張った。


俺の出した手紙にボス猿が誘われたのは、

葉山の死の原因を探るためだった。


額に浮かんでいた汗が頬を伝って地面に落ちた。

足だけでなく手も震えていた。

俺はそれをナカマイ先生に悟られないように

後ろ手に組んだ。


「彼はきっと殺された。

 彼が葉山さんのことを調べていることを

 快く思わなかった人間に」

そこまで話して、

ナカマイ先生は「ふぅ」と息を吐いた。


ボス猿を殺した人間は俺の流した噂を利用した。

葉山の死の責任をボス猿に擦り付け、

ボス猿の死を自殺に偽装した。

唯一の誤算は

ボス猿には生殖能力がないことを

知らなかったこと。

しかし、今のところそれは問題になっていない。

まさに犯人の思うつぼである。


「犯人はこの学校の私達教師の中にいる」

ナカマイ先生は力なくそう呟いた。



フェンスに手を掛けて校庭を望んでいる

ナカマイ先生の横顔を

俺は下からじっと見つめていた。

「ごめんね。

 こんな話。

 君に話しても仕方がないのに」

ナカマイ先生が俺の方を見て微笑んだ。

俺は自分でもわかるほどのぎこちない笑顔を

返した。

「何だか立場が逆ね。

 でも不思議なの。

 君はたまに先生よりも大人に見えるときがある。

 とにかく君に話してすっきりしたわ」

そしてナカマイ先生は大きく背伸びをした。

「でも君はもうこの話は忘れるのよ。

 特に犯人がこの学校の教師の中にいる

 って言ったのは先生一人の考えで

 何の証拠もないから

 絶対に他の人に言っちゃだめよ」

「う、うん」

俺は精一杯元気に返事をしたが、

心の中には靄がかかったままだった。

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