567.エナD〜ミハイルside
「頼みがあるんだ」
薬ができ、俺とリャイェンに流民達へ飲ませるよう言ってから1週間後。
神殿を不在にしていた王女がふらりと戻った。
王女は見るからに疲弊している。
目の下の隈が濃くなっていて、不眠不休で何かをしていたのだと察した。
王女は俺、ラルフ、リャイェン、何も呼ばれないままについてきたポチを引き連れ、リャイェンが魔法抗体を作っていた部屋に向かう。
部屋の鍵を締め、防音魔法を展開すると、ポチを除く俺達全員の顔を見てそう告げた。
「頼み?」
もちろん、どんな頼みにも応えるつもりで俺は聞き返す。
「うん。
リャイェン。
まず1つ教えておく。
流民と呼ばれる君達は明日、ここから新設した転移署まで私の魔法で転移し、転移署から辺境地に向かって。
辺境地に船を手配した」
「「「「は(ワフ)?!」」」」
王女を除く全員が声を揃えた。
「いやいや、まだ全員病み上がりだし、熱出してる奴もいるんだぞ?!」
「うん、仕方ないね」
真っ先に流民を心配する
「何故、そんなに急ぐ?」
いち早く我に返ったラルフは、静かに問う。
最近、特に思うがラルフは俺の妹の突飛な言動に付き合ってきただけあり、肝が座っているな。
流民が自国に戻るのは、俺の知る史実ではもう
そもそも流行病の特効薬ができるのも、もっと先で……。
「まさか……負債の話が?」
確か特効薬はエビアスが教皇と作った事となり、流民達は負債と特効薬の製法と引き換えに、貧民街の治水工事を請け負った。
つまり負債を労力で返した。
治水工事が終わった頃、隣国の紛争は最悪な形で沈静化する。
争う必要がない程、人口が減って経済も破綻した。
ロベニア国をはじめ、周辺国からの援助無しに立ち直る事が難しくなったのだ。
「うん、良くわかったね。
スリアーダ王妃がエビアスを使って、数日以内に国王へ提案する……らしい?」
「「「「らしい(ワフ)?」」」」
小首を傾げて告げる王女に、再び俺達の声が揃う。
「うん、まだだから。
エッシュが流民達に特効薬の精製方法と経済支援を負債にして、貧民街の治水工事を流民達にさせようとしてるって言ってたよ」
「ざけんな!
また俺達に毒に殺られろって言いたいのかよ!
薬があれば良いってもんじゃねえんだぞ!」
王女の言葉にリャイェンが憤る。
俺は祖父が王女に伝えたという方に注意が向く。
祖父は瞳の力で情報を仕入れたのか?
「そっちは心配しなくて良いよ。
先に潰した。
魔法で粗複製した薬だから粗雑な出来になったけど、川に大量に撒いておいた。
それにまだ国王へ話が伝わっていない。
可能性を考えて、薬については神官達が気づくまで黙っておいたんでしょう?
教皇がここに関心を持ってたのが、思ってた以上で気づかれるのが早かったけど。
薬の製法を教えろって通達が来たのが今日だったからね。
でも【エナD】の方は、まだ知られていない」
王女が命名した【エナD】は、ポチが持って帰った小瓶の薬を更に改良してできた。
王女はベースとなる見本と球根を持ち帰ったポチのお手柄だと言って、犬頭を撫でていた。
しかしスノーフレークの花部とリャイェンから取り出した魔法抗体で作る、毒の特効薬だけでも凄い。
なのに同時進行で【エナD】まで作るとは……。
だが、何でエナDにした?
魔力回復薬とか、ポーションとか、もっとそれっぽい命名で良いだろう。
ポチと言い、エナDと言い、王女のネーミングセンスはどうなのか……。
とにかく王女の厳命もあり、エナDは極秘扱いとして、俺、ラルフ、リャイェンと犬のレジルスのみで情報を規制した。
特効薬を飲ませると見せかけ、エナDを飲ませて流民達の失った魔力を回復させた。
だが、激マズだ。
飲んだ者はもれなく吐きそうな顔をする。
一発で特効薬との違いに気づく。
しかし特効薬の効能はそのままに、味が安定しないと嘘を吐いた。
心苦しいが、エナDの効果は本物だ。
※※後書き※※
いつもご覧いただき、ありがとうございます。
作者:ゲロマズなエナジードリンク……。
ラビ:不味い、もう一杯。
作者:やめて、違う商品になっちゃうから。
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