521.迫られる〜ミハイルside

「ミギャアァァァァ!」

「ワンワンワンワンワン!」

「!!!!!」


 俺とレジルスは吠えながら駆ける。


 俺達と同じく、駆けるラルフ。

兎の性質上、吠える事はできない。

しかし気合いだけは感じる。


 魔獣達はピヴィエラが言っていた通りだった。

魔獣集団暴走スタンピードになりかけている。


 恐らく黒蛇が放つ殺意への恐怖からだろう。

正気を失いかけ、森から出ようとしていた。

パニック状態になっている。


 魔獣達は、初めこそ個々に逃げていたはず。

しかし恐怖やパニックは伝染する。

個が小規模な集団になり、小規模な集団が大規模な集団へと変わりつつあった。


「犬、次は大型の魔獣を蹴散らせに行く!

猫と兎は二手に別れ、暴走しそうな小型と中型の魔獣を蹴散らせ!

3匹共、もっと全力で駆けよ!」


 レジルスの背中に跨るピヴィエラが、殺気を放ちながら指示をだす。


 俺とラルフはピヴィエラの魔力を体に纏っている。

この体で、森の外へと向かう魔獣達の前に立ち塞がる。


 魔獣が強大な魔力に怯んだところで、渾身の猫パンチ。

ラルフは子兎キックをそれぞれお見舞いしていく。


 ぶっちゃけ威力はないと自分でも思う。

魔獣が正気を取り戻し、次第に沈静化していくのは、聖獣であるピヴィエラの魔力故だろう。


 レジルスの方は、背中のピヴィエラが大型魔獣達へ殺気を直接ぶつけて止めている。

ピヴィエラも魔力は温存したいようだ。


 殺気だけで大型の魔獣がクルリと方向転換して森の中へと戻っていく様は、流石としか言いようがない。


 ある魔獣は正気に戻り、また別の魔獣は新たに芽生えた恐怖から、集団は散り散りになってスタンピードになりかけた魔獣達は沈静化へと向かっている。


 安堵しかけたその時だ。


「ぐっ!」

「ワフ?!」


 ピヴィエラが突然呻く。


 タイミング悪く、レジルスが大型魔獣の前に勢い良く走りこんだ時だった。


 跨っていた背中から、振り落とされたかのような勢いでピヴィエラの体が宙を舞う。

しかし苦痛に顔を歪ませたピヴィエラは、対処できない。


 レジルスはレジルスで、突進してきた大型魔獣に弾き飛ばされて地面を転がってしまった。


「ニャン!」

(ラルフはピヴィエラを!)


 小型の魔獣はちょうどはけている。

大型魔獣が森から出てしまうが、それどころではない。


「ニャブ!」

(うぶ!)


 思わず呻いてしまうが、間一髪で落下するピヴィエラの下に滑りこめた。

正直、竜の体は硬くて痛い。

しかし元々弱った体だったピヴィエラが、ゴツゴツした地面や木の幹にぶつからなくて良かった。

 

「ピヴィエラ!

どこにおるか!

何故命令した通りエビアス王太子殿下とハディクに卵を差し出さなかった!

返事をしないか!

くそ、大型魔獣が出てきたではないか!

さっさと処理しないか!

ピヴィエラ!」


 ほっとしたのも束の間、不意に怒号がどこからともなく飛んできた。

風魔法で拡声させている。


「……っ、こんな、時にっ、うっ……」


 息も絶え絶えになるピヴィエラの体には、幾筋か裂傷が走る。

痛みから、ゴロンと俺の上から地面へと転がってしまう。


 見覚えのある裂傷。

そして不快感しかない怒号。


 間違いなく聖獣ピヴィエラの契約主にして、この時代のアッシェ公爵家当主の仕業だ。


 不意に遠くの方で火柱が上がった。


 森の中で火魔法を使うな!


 思わず自分本位かつ、危険な行動に怒りがこみ上げる。


「ワン!」

(ミハイル、ピヴィエラは?!)


 今度は子兎を背に乗せたレジルスが、トテトテと歩み寄る。


 見る限り、レジルスには目立った外傷がない事に、まずはほっとした。


「ニャニャニャ」

(落下した衝撃からは守れたが、また罰を与えられている)


 俺の言葉にレジルスとラルフも、小さくなっていく火柱の方向を睨む。


__ドドド……。


 その時、今度は足音が森の外の方から聞こえた。


「ワフワフ!」

(チッ、外に逃げ出そうとしていた魔獣が何頭か戻ってくる!)


 この速さと足音の種類からして、先程の火柱に恐れをなした大型魔獣達が、こっちに向かって駆けてきつつある。


「妾は、良い。

逃げ、よ……」


 動けずにいるピヴィエラが、微かな声で告げる。


 動物の体ではピヴィエラを連れて逃げられない。

しかし置いて行くなど……。


 迫る足音に、俺達は選択を迫られる。





※※後書き※※

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