516.黒蛇襲来〜ミハイルside
「倒れて、次に起きるまでに何があったかのか状況はわかった。
後は試練か……何か手がかりがあれば良いが……」
「助けたくば、見つけよ」
ラルフが思い出したようにポツリと漏らす。
「助けたくば?
……あ……」
そうだ。
国王と妹が展開した魔法陣に吸いこまれた感覚がした直後に、誰かがそんな事を言っていたが……。
「それが……試練?」
レジルスもこの言葉に思い当たったらしい。
何かを思案し始めた。
「公女を探せ、という事だろうか?
もしかしたら、公女も動物になっていたりするのか?」
ラルフの言う通り、探すのが妹だと仮定する。
しかし、もし妹が俺達のように姿を動物へ変えられていれば、探し出すのは至難の業だろう。
「しかし……それだけではないように思う。
魔法陣に吸いこまれる直前、妹の体から人とは異なる魔力のような光が飛び出して魔法陣に干渉していた。
あの光は、まるで聖獣の魔力のように感じた。
もっとも俺が聖獣を目にしたのは、ほんの数回。
正直、正しい判断か自信はない。
しかし試練とやらが、ただ妹を探す事だけとも思えない」
俺がそう言うと、レジルスが口を開きかけた。
その時だ。
__……ゴゴゴ。
遠くの方から、音が低い音が聞こえてきた。
__ゴゴゴ……バキバキ。
音は少しずつ近づいてきている?
猫耳だからか、次第に音が判別できてくる。
レジルスもラルフも、動物の耳を音の方向へ向けて警戒を始めた。
この音は、木が倒れている音?
それも1本や2本じゃない。
__バキバキバキバキ。
デカい何かが何本もの木にぶつかり、薙ぎ倒しながら……。
__バキバキバキバキ!
「「「逃げろ!」」」
俺達3人、いや、3匹は口々に発して3方向に駆け出す。
音の方を見れば、人の何倍もあるデカくて長い体躯の……。
「黒蛇?!」
赤い目を血走らせた蛇型魔獣だ!
犬のレジルスは、黒蛇の軌道から上手く逸れて逃げた。
だが俺とラルフは猫と子兎。
それも体が小さい分、なかなか大きな黒蛇の軌道から逸れる事ができない。
「ギジャァァァァァ!」
(よくもよくもよくもぉ!)
人すら簡単に飲みこめるくらいの大口を開けた蛇が、俺とラルフに迫りくる。
この蛇は一体、何に怒り狂っている?!
動物の姿だからか、黒蛇が怒りで我を忘れているのも、蛇語も理解できる。
しかし森に来たばかりの俺には、理由まではわからない。
少なくとも怒りの対象が俺達でない事は確かだろう。
ただ、このままでは巻きこまれて食われる!
「ひぃっ」
「見つかった?!」
その時、人の声が進行方向から聞こえた。
茂みの向こうだ。
背後に迫る黒蛇の圧を感じながら、ラルフと同時に茂みを駆けていく。
次第に2人の人間の姿を捕らえ始める。。
「ハディク!
どうにかしろ!」
そう叫んで逃げているのは、十代半ばくらいの少年。
空色の瞳に、薄緑の髪。
いや、それだけじゃない。
髪には王族の証である銀が混ざっている?!
「くそ!
エビアス、そのまま逃げろ!
デカいだけの魔獣が調子に乗るな!」
もう1人も少年だ。
赤茶色の髪と、緑色の瞳。
ハディクと呼ばれた少年は、エビアスと呼んだ少年と共に駆けたものの、逃げられないと悟ったのか振り返って剣を構えた。
構えから察するに、剣の手ほどきは受けている。
「うおおおお!」
吠えたハディクが剣に炎を纏わせた?!
待て待て!
あの剣には見覚えがある!
アッシェ騎士団長が帯剣している魔法具にそっくりだ!
「ミギャー!」
(ラルフ!
横に跳べ!)
猫語でラルフに警告し、横に避ける。
ハディクが、今しがた俺とラルフがいた場所を蹴散らせ、黒蛇の顔をめがけて飛びこんだ。
「シャー!」
(許さんぞー!)
黒蛇が自分の魔力を顔に集中させ、ハディクが振り下ろす前に剣へとぶつかりにいく。
__ガキン!
「うわっ!
ぎゃあ?!」
使い手の力量が、まだまだ未熟だったからだろう。
蛇を切り裂くでも、燃やすでもなく、剣は面の皮に弾かれて地面を転がる。
ハディクも転がり、次の瞬間には、蛇がハディクの腹に牙を立てている。
丸呑みにはしないらしい。
叫び声に振り返ったエビアスは、ヒッと悲鳴を上げる。
するとそのままハディクを見捨て、更に逃げようと走る速度を上げた。
黒蛇はそんなエビアス目がけてブン、とハディクを投げつける。
「「グハッ」」
くぐもった叫びと共に、少年2人は絡みあってゴロゴロと転がった。
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