514.死んだ?ショックはない〜ミハイルside
「さあ?」
妹を早く助けねばと真剣に尋ねた俺に、レジルスは犬の顔で首を捻る。
妹なら萌えに悶えるかもしれないが、俺は違う。
「はあ?」
思わず怒気を含んだ、チンピラのような物言いになる。
猫の顔でどこまで伝わるかはわからないが。
「わからん。
そもそも何らかの試練を受けるとは言ったが、何の試練かまでは言っていない」
「何だ、そのトンチ的な言い回しは!」
今なら俺の手には鋭い爪が付いている!
その犬っ面を猫パンチ、からの爪攻撃をお見舞いしてやろうか!
「ミハイルこそ、何か視えなかったのか?」
「何も……」
俺が持つ瞳の力を知っているからこそ、レジルスは逆に尋ねたのだろう。
しかし試練に繋がりそうなものは何も……そう答えようとして、思わず口を噤む。
「ベルジャンヌ王女……」
「王女?」
レジルスの朱色の瞳が、俺に何か期待したを感じ取る。
ラルフは……多分、訝しげ?
兎の表情は読めないが、既に王女への印象が変わってきている俺とは違い、ラルフは稀代の悪女としての印象しかないはずだ。
「ああ。
生まれてすぐの王女が2歳になるまでを視た。
2人は国王が古代魔法を展開した後、どうなった?
いや、そもそも何故あの場に居合わせた?
私は……」
レジルスは結界の張られたあの大破した部屋に直接転移してきたし、ラルフは国王の後について走っている時、合流してきた。
そもそも俺は何故、あの場にいたんだ?
改めて自分の状況を整理しながら、自分から先に説明を始める。
薄赤い結界が学園を覆い、魔法が全く使えなくなった中、魔獣が湧いて出た。
レジルス、騎士団長が王妃と周りの学生達を連れて転移しようとした。
しかし直前、シエナが現れた。
シエナは王妃と共に転移しようとした王子達の婚約者候補2人を攫った。
正直シエナが生きていた事も、転移魔法が使えた事にも驚いた。
直後に鞭使いの王家の影が王妃から手を離してその場に留まってくれた。
それにしても、あの青紫色の鞭……一瞬、妹の存在とヘインズが師匠と呼んでいた女性が頭を過ったのは言うまでもない。
まさか王家の影の正体って……。
と、思った時に第2王子が現れた。
第2王子はフォルメイト嬢も含む3人の令嬢を助けたくば、俺1人で多目的ホールへ来いと言った。
フォルメイト嬢には校内アナウンスで避難を呼びかけるよう頼んでいたが、その前に攫われたのだと理解した。
貴賓達を避難させる手筈を先に整え、多目的ホールへと向かった。
そこで俺は……どうなった?
俺はダツィア嬢とバルリーガ嬢を人質に取られた。
フォルメイト嬢と共に……そうだ、第2王子とシエナに甚振られた。
それからシエナが殺そうとしたフォルメイト嬢を庇って……前に出た。
そして……胸を貫かれなかったか?
甚振られたあたりから、記憶が薄らいでいる?
お陰で自分が感じたはずの、死に直結しそうな痛みと死への恐怖心はないが……。
その後、気づいたら床に転がっていた。
室内が俺の記憶よりもボロボロになっていて驚いた。
俺達を甚振っていたシエナと第2王子、いつからいたかわからないジャビ、そして3人の令嬢の内、バルリーガ嬢だけいない。
共にいたフォルメイト嬢とダツィア嬢に聞いても、甚振られた辺りから記憶が曖昧だった。
学園での訓練でも、怪我をする事はなかった高位貴族の令嬢達。
俺もそうだが、2人の令嬢達も服は損傷していたし、胸元が……まあ特に酷かったから、少なくとも大怪我をした事は想像するに難くない。
なのに3人共、体は全くの無傷。
精神的なショックも見られない。
俺は応急処置的に、レースのカーテンを切って令嬢達の肩に掛けた。
その時、破壊された扉の前を全力疾走する国王を見つけて、追いかけた。
国王が何故、黒蛇を巻きつけていたのかは知らない。
途中で合流したラルフも、服はボロボロ。
特に脇腹部分の服は、食い千切られたかのようにない。
鍛えられた腹筋が覗いていたが、体は無傷だった。
そこからは共に行動したから、レジルスにもラルフにも説明は省く。
「俺も似たようなもので、魔獣達と戦いながら同級生達を逃がしていた。
その時にカルティカ、いや、チームメイトの1人を庇って、魔獣に脇腹を食われた……と、思う?
気づいたら、それまでに負っていた?
多分、あちこち傷だらけだったはずだが、記憶も朧気で……俺も死んだ……はず?」
どうやらラルフも死に直結する怪我をしたようだ。
なのに俺と同じく痛みも、死への恐怖も、殆どない。
もしやレジルスも?
そう思ってレジルスを見るが、犬の首は左右に振られた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます