513.鳴き声と副音声〜ミハイルside

__ドサドサドサッ。

「「「!!」」」


 突然の浮遊感。

からの、落下。


 色々と展開が早すぎて、ついていけない。

先程までの光景とはうって変わり、地面には所狭しと草が生えている。

お陰で怪我はせずに済んだ。


 俺の他にも何かが地面に落ちる音がしたが、一体何が落ちたんだ?

辺りを見回す。


 鬱蒼とした……森?


 そうして二対の目と、目が合った。


 動物だ。

犬と兎。

兎は小さく、まだ子供だとわかる。


 どうやら共に落ちたのは、この2頭のようだ。


 それにしても明かりもなく真っ暗な夜なのに、よく見える。


 スクッと立ち上がろうとして、グラリと体が揺れて地面に手を突く。

足が痺れたわけでも、感覚がないわけでもないのに立てなかった。


 犬と兎も同じように立とうとして、犬だけが地面に転がった。

兎は少しよろけたが、それだけだ。


 何が起こったかわからず、突いた手が視界に入る。


「……ミャ?」

(へ?)


 ん?

俺、今……鳴いた?

間の抜けた声が漏れたんじゃなく?


 え?

手を……手が……足も……。


「ミギャ?!」

(何だ?!)

「ワフ……」

(動物になった……)

「ブブ……」

(縮んだ……)


 俺も含めて2匹も同時に鳴く。


 自分達が何を言ったのかは、何故か人語が副音声的に聞こえてきて理解できる。

理解できるが……。


 それより最後の縮んだって何がだ?


 それとなく、俺達はそろそろと互いに近寄る。


 犬は黒い毛皮に朱色の瞳。

子兎は灰色の毛皮に暗緑色の瞳。

俺は金色の毛皮で、瞳の色まではわからない。


 それよりも目の前の2匹の、毛色と瞳には見覚えがある。

それに瞳の色は魔獣でも動物でもなく……。


 子兎がハッとしたかのように固まってから、肉球の付いた両手を見る。

もし妹がそんな仕草を見れば、萌えが滾るとか何とか言いそうだと思える愛くるしさだ。


 ややあって、子兎が状況を飲みこんだらしく……。


「ブブブ、ブブブ」

(レジルス王子、ロブール公子)


 と鳴いた言った


 どうでも良いが、兎の鳴き声ってこんな風なのか。

そう思ったのは、単なる現実逃避だ。


「ワンワンワンワンワンワン……」

(ひとまず状況を整理する。

俺の目には猫と子兎に移っているが、猫がミハイル、子兎がラルフで合っているな)

「ミャミャミャミャミャ……」

(合っています。

レジルス王子は犬、ラルフ少年は子兎ですね)

「ブブ、ブブ、ブブ、ブブ……」

(はい。

公子も、ラルフと呼び捨てていただいて構いません)


 鳴き声と副音声が2重に重なって、ちょっと頭に入りづらい。

鳴き声の方をあえて無視し、言葉を拾うよう努める。


「俺達は今、公女が……んんっ。

国王が主体で公女と共に展開した古代魔法によって、何らかの試練を受けている」


 やはり国王が俺の妹に魔力を纏わせたように視えたのは、正しかったようだ。

レジルスも今の状況に困惑しているのだろう。

言い間違えそうになったのを、すぐに言い直した。

それにしても……試練?


「レジルス王子は、あの魔法が何なのかご存知なんですか」

「ラルフ。

ミハイルもだが、少なくともこの試練が終わるまでは、呼び捨てで敬語も無しだ。

わかる。

と言っても、国王しか閲覧できない禁書庫にあった文献で見ただけで、初めて目にする失われた古代魔法と呼ばれる類の魔法だ。

想像するしかない」

「ラルフ。

私も呼び捨てで、敬語は無しで良い。


 犬の顔でラルフに許可を与えるレジルスに、俺も同意しておく。

ロベニア国の身分制度に縛られている場合ではない。


「レジルス。

国王しか閲覧できないのに、何故お前は知っている?

と言うのはこの際、もう良い。

何の魔法で、どんな試練を受ける?」


レジルスのやらかし体質もそうだ。

今は咎めている場合ではない。


「発動中のあらゆる魔法を強制解除する魔法だ。

恐らく公女は、何かの誓約魔法を破ったせいで罰を与えられている。

何者と誓約したのかわからないが、体には聖印を刻まれ、焼かれていた」

「何故、そんな……」


 子兎の顔をしたラルフが呆然と呟いて、俺の顔を見やる。


「兄として不甲斐ないが、俺にもわからん。

ラビアンジェが何の誓約を、誰と結んでいたのかもな。

しかしレジルスの言葉が本当なのは確かだ。

レジルス、俺達は何をすれば良い?」


 兄としては不甲斐ない思いに落ちこむが、妹の体を焼き刻む聖印には殺意すら感じた。

そして間違いなく、あの3体の聖獣達がいなければ、今頃は妹が灰になっていたと確信している。


 あの聖印によってベルジャンヌ王女が亡くなった光景を、教皇の記憶の中で垣間見たのだから。


 早く試練を乗り越えて、俺の妹を助けなければ。





※※後書き※※

いつもご覧いただきありがとうございます。

6章の本文……本章(?)スタートです!

森に種族違いのモフモフ動物が顔つき合わせているシーンが書きたくて、動物化しました(*´艸`*)

嘘です(いや、嘘でもないんですが……)。

話が進む時、動物の瞳の色の話題にちょびっと注意して読んでいっていただけると、6章後半あたりで5章終わりに書いたピケの瞳の色や他の伏線に繋がる(予定……かもしれない的?)かなと思います。

そのうち(多分全員……1人だけ迷ってますが……)人に戻ります。

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