498.干からび系ミイラ
※※前書き※※
なるべくグロ表現は抑えてみたものの……人によっては受けつけないかもしれません( ;∀;)
苦手な方はシュバッと下にスライドして、最後の数行見るだけで十分かもしれない。
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「うぐっ!
ウッ、んんん!」
シエナの喉の奥に魔力塊が入ったところで、キャスちゃんの力を使った風刃でルシアナの体と分離する。
腐って変色していた傷口は、焼いて閉じた。
シエナの顔を覆っていた悪魔の力が剥がれ、老婆の顔に戻ってしまう。
やっぱり元々の顔は変わってなかったのね。
シエナは無視して、ルシアナの体に向き直る。
「憐れな子」
何となく口にして、リアちゃんの力を引き出しながら、高火力で荼毘にふす。
『ギャアアア!』
ルシアナの中に宿った悪魔の力が消滅した。
「ひ、化け物ぉ!!」
突然、愚か者が怯えた声を出す。
いつの間にか、纏っていた火が消えていたみたい。
薬指に、指輪の跡?
そんなものはめていたのかしら?
正気に返ったかのような、とはいえ錯乱状態ね?
全身に薄い火傷を負った愚か者の方に、シエナの顔が正面を向いていた。
慄く気持ちもわからなくはないけれど、体を重ねていたのだから、もう少し言い方はあるんじゃない?
愚か者の火傷が軽症で終わったのは、自分の魔力で生み出した炎だったから。
無意識の防御反応が出たみたい。
「……!
……!」
シエナは喉の奥に塊が詰まった状態だから、話したくても話せない。
今の声帯がどんなものか全くわからないけれど。
何を喋りたいのかと立ったまま、皺の出た口元を覗く。
口は必死に『やめて、見ないで』と紡いで、涙を流していた。
この状態でも動くなんて。
今のシエナは、完全に魂が堕ちてしまったのね。
悪魔の力と完全に融合しているわ。
「ヒッ、嘘だ、シエナ……コイツが?!
私は化け物を、抱いて……ウッ」
「……!
……!」
「……はっ、はっ……ウップ……や、やめろ!
醜い顔を向けるな!
化け物め!
私を騙していたのか!
そうだろう!」
こみ上げる何かを抑えるように口元に手をやる愚か者。
罵倒する資格もないのに、愚か者が罵倒を続けていれば、シエナから黒い靄がフワフワと漂う。
少し間を置いてブワリと煙のようになって本人を覆い始めた。
「うるさい、うるさい!
お前など、愛していない!
そうだ、指輪!
お前の髪色の指輪をつけた時から、騙されていたのだ!
消えろ!
消えてくれ!」
シエナの悲壮感溢れる声のない訴えを、正確に読み取っているのね。
愚かな行為をなかった事にしたいのか、必死に叫んでいるわ。
覆っていた靄がシエナに吸収され、髪すらも完全に黒い塊へと変えた。
「ああ……シエナ、こんなに絶望して」
その時、愉悦に歪んだ笑みを口元に貼りつけたジャビが、シエナへと歩み寄った。
真っ黒になったシエナの髪を鷲掴みにして、自分の目線の高さに持ち上げた。
「……!
……!
……!」
「そうだ。
許せないだろう?
つらいだろう?
妬ましいだろう?
憎いだろう?
シエナ、可哀想に。
俺の一部となって、恨みを晴らそう」
「……!
……!」
(殺して!
皆、殺して!)
__ボヒュッ。
シエナの怨嗟がどこからともなく微かに耳へと届く。
途端、シエナの形をしていた黒い塊は
「ァヒッ」
弾みで脱げたジャビのフード。
その素顔に、愚か者が驚愕した顔で悲鳴を上げた。
「……スリアーダに、ベルジャンヌの髪……」
素顔はスリアーダで間違いない。
けれど口元は若く、左の目元は随分とくたびれている。
そして右側の目元から上。
骨が剥き出しになっているわ。
記憶の中のスリアーダは燃えるように赤い、艷やかな髪をしていたわ。
なのに今は、ミイラみたいに水分の抜けた髪質。
左側にだけ生えている。
そして右側の髪。
未だにベルジャンヌの魔力が僅かに宿っているのね。
切り取られた時の状態を保った白桃銀。
きっと残滓となって消えかけていたジャビは、髪に残っていたベルジャンヌの魔力を媒体に復活した。
けれど留まり続けるのは、スリアーダの魔力と怨嗟を用いても難しかった。
それでも何十年も留まれたのは、ベルジャンヌの魔力が凄いのか、それともスリアーダの怨嗟が並々ならないものだったのか。
この世界はイメージや想いの力からも影響を受けるから、怨嗟の方かしら?
ベルジャンヌの髪を取りこんだ辺りの風化……劣化?
が激しいわ。
右上の顔が白骨化し、左側にも影響が及びつつあるもの。
前世のゾンビ映画よりも歪だけど、生々しさは少ないかしら。
干からび系ミイラ、みたいな?
それを見て、なるほどと合点がいく。
ジャビが復活を急いでいた理由。
体を失いつつあったから。
恐らく悪魔の力は消えない。
消えるなら、私が自分の体ごと滅した前々世でとっくに消えている。
けれど体がなければ、悪魔はこの世界に留まって、何かしら負の影響を顕現させられない。
だとして……ジャビの与えたい影響って何かしら?
ふと考える。
顕現する事にこだわる、ジャビ自身の理由。
考えた事がないわ。
思い出せば、いつも後手に回っていた。
その場で起きた事を防ぐだけだったもの。
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