496.昭和の少年漫画なんかでよくある

「それよりもジャビ?」

「はあ?!

何でアンタが私の親友を……」

「いいのよ、シエナ」


 ジャビを呼べば、シエナが親友を取られると、またまた勘違いしたのね。


 部屋の隅でニヤニヤしていたジャビは、いつもの口調と声音でシエナに優しく声をかけながら歩み寄り、その肩に手を添えた。


「ジャビ……」


 途端、不自然なくらい大人しくなるシエナ。


「……そういう事」


 シエナとジャビが互いに触れていると見えたのは、隷属の鎖。

シエナはジャビに精神を支配されている。


 恐らく新たな肉体を得る為に、悪魔と契約した代償。

確かにシエナの思春期らしい、感情を優先させた後先を考えない言動は、ジャビの目的の邪魔になりそうだもの。


 コントロールの効かない手駒に、足下をすくわれたくはないはず。


 私の小さな呟きは、ジャビの耳に届いたみたい。

ローブから覗く口元が弧を描く。


「ジャビ。

母上の体を守ってくれた事には感謝してやる。

だが今は、私とシエナがこの無才無能と話し……」


 ジャビは愚か者の母親である側妃が、どうして死んだか話していないのかしら?

それにジャビが側妃の体を守る?


 一過性に守ったとしても、結局は……。


「君とこうしてまともに話すのは、やっぱり変な感じね」


 上機嫌な様子のジャビは、愚か者の言葉を完全に無視して遮る。


「おい、ジャビ……」

「愚か者は少し黙ってらしたら?」


 次に遮ったのは、私。


「何だと!

この無才無能……」

「黙れと言ったのよ?」


 愚か者の目の前に転移して胸倉を掴む。

身体強化してから自分に引き寄せ、隙だらけの鳩尾に膝蹴りを入れる。


「ぉぐっ」


 王子は呻きながらも、私に自分の火属性の魔力を纏わせて火をつけようとする。

腐っても王族ね。


 ドン、と私自身が炎を纏って火柱となる。

けれど、これくらい問題ない。


「いつまでも状況を見誤る上に、話す言葉も程度が知れているわ。

黙れないなら、塞いでおくだけよ」

「んぶっ」


 愚か者の魔力と自分の魔力の波長を合わせ、更に高温の青い炎へと変える。

青い炎を自分の拳に纏わせてから、形だけは良い愚か者の頬を思い切り殴る。

もちろん身体強化も忘れない。


「……っあ、ひっ、火がっ!

やめろ!」


 あらあら。

地面に叩きつけた愚か者の頬に、青い火種が移ってしまったわ。


 けれど自分の魔力で体表を覆って、相手の魔力に干渉しておけば、体を焼く事はないのよ。


 元は愚か者が作った炎だからかしら。

青い焔が思った以上に勢いづいてはいるけれど。


「ひぃっ、熱い!

やめろ!

止めてくれぇ!」

「ふふふ、嫌ねえ。

ご自分が出された火の不始末は、ご自分でなさったら?

とっくに私の手を離れているわ。

それから私、これでも幾らか怒っているの。

けれど、あえてあなたを放置する事を選んでいる。

あえてよ。

言葉は理解できるわね?」

「あああああ!」

「 まあまあ、理解する以前に聞いていないなんて。

悪い子」

「ああ……ぁ……」

「あらあら、聞かずに寝てしまうつもり?

仕方のない子ね」


 精神干渉で愚か者の意識を無理矢理、表層にやる。


「……あ、ああああ!

やめろ!

熱い!

痛い!

やめ、やめて……ふぐっ」


 立ったと思えば、火を纏ったまま踊ろうとするくらいには、元気ね。

そんなにも元気なら、ガラ空きボディに蹴りをお見舞いしても良いかしら。


 あまりに大きなお口を開けると、喉を焼いてしまうかもしれないし、それは私も望まないわ。

今はね。


 私の蹴りをまともに食らった愚か者は、ダツィア侯爵令嬢の隣の壁に背中を打ちつける。

けれど熱さから体をくねらせようとする元気は、まだ健在。


「火、火を消し、あああああ!」


 いつものような孫を見る感覚にはなれないまま、叫ぶ愚か者の体から、自分の魔力だけ霧散させておく。

残った自身の魔力が尽きれば、軽く燻る赤い火種も消えるはず。


 冷たく一瞥してから、ジャビに向き直る。


「シエナと側妃を使うなら、早く使ってくれない?

時間がもったいないわ。」

「ちょっ……?!」


 口を挟みそうなシエナに話しかけるのも面倒ね。


 魔力をぶつけるようにして開放する。

昭和の少年漫画なんかでよくある、オーラや闘気を纏うシーン。

あんな感じで6色の魔力を可視化できるくらい圧縮して、体から開放するの。


「なんっ、きゃあ!

ぅぶっ」


 一瞬の魔力暴走みたいなものだから、シエナも愚か者同様、壁に叩きつけられるのは仕方ない。

顔面からいったから、ちょっと痛そうね。

体に火傷や打撲、擦過傷もできる。

精神的には圧倒的敗北感を味わう事になるから、そんな風に床に座りこんで、動けなくなるのも当然よ。

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