477.道連れ〜レジルスside

「…………良かろう」


 フラリと立ち上がった陛下は、短剣を片手に持ったまま、両腕を軽く広げて側妃の方へと歩を進める。


 まるで正面から側妃を抱きしめるような素振りを見せる陛下を見て、側妃は悦に入った笑みを浮かべた。


 同じように腕を広げ、陛下に抱きしめられる事を確信したかのように一歩踏み出した。


 その時。


「……え?」


 触れるか触れないかの距離で、側妃が戸惑いの声をポツリと漏らす。


 こちらからは側妃が陛下に隠れてしまい、陛下の後ろ姿しか見えない。

何が起こった?


「陛、下?」


 側妃は陛下に支えられるように、ガクリと膝から崩れて地面に座りこんでしまった。


 そこでようやく側妃の胸が、血に染まっているのが見えた。

陛下の手にした短剣が、何かの宝石ごと側妃の胸を刺し貫いている。


 目を凝らし、宝石に見覚えがあると気づく。


 確か王妃が、先代王妃祖母から下賜されたと言っていた宝石。

どんな時も肌身離さず身に着ける程、大切にしていた。


 今日は外から見えるようにして、首元を彩っていたはず。

しかし腕の中の王妃の首に、今はない。


「よ、くも……よくも!」


 掠れた声の側妃が、ギッと睨みつけた。

それは陛下ではない。

俺の腕にいる王妃だった。


 側妃の体から、今まで見えなかった黒い靄が薄っすらと見えた。

やはり教会地下の教皇と似ている。


 砕けたペンダントに、何かの魔法が付与されていて、可視化された?

ペンダントは魔法具だったと推察できた。


「させぬ」


 靄が俺の方、いや、王妃の方へ向かおうとした時、陛下が短剣に魔力をこめた。


 すると宝石の亀裂から聖属性の、しかし人とは性質の違う魔力がこもった緑銀の光の粒子が舞い、靄を包む。

 

『ギャー!』


 どこからともなく甲高い断末魔の悲鳴が聞こえると、光の粒子も黒い靄も消えてしまった。


「……え?

な、何故……嘘……力が……」

「やはり、悪魔の……グッ……」


 陛下が倒れ伏す。


「どこ、までも!

陛下……ジルガリム!」


 怨嗟の声で陛下の名を叫んだ側妃。


「……カハッ」


 しかし陛下が小さく喘ぎ始めた様子をを見て、ニヤリと笑う。


「私の血を、直接……もっと……」


 側妃が自らに収まった剣を両手で素早く抜き、陛下に振り下ろす。


 騎士団長が転移したが、間に合わ……。


「ハイヨ!」

「ンブェェェ〜!」


 突然小さい羊が……飛んで?

跳んで?

側妃の背後から短剣を蹴り飛ばした。


 何か羊の腹から蔦生やしてるな。

何であんなに眉毛が凛々しいんだ。

いつぞやミハイルから聞いた羊……いや、あれは巨大な走る丸茄子に生えた?

繋がった?

羊だと聞いたぞ。


 間違っても教皇の頭から生えた?

生えてるよな?

生えたミニチュア羊では……。

おや?

いつぞやの地下で見た、やたら聖属性の魔力を帯びてるアルラウネが1匹羊に跨ってるな?


 未確認生物を頭に戻した教皇が、体勢を整える。

しれっと教皇特製帽子被って隠したが、今さらだろう。


 俺だけじゃなく、絶句してる弟妹達も間違いなくガン見したからな?


 公爵は滅茶苦茶に無表情を保っているが、むしろ、だからこそ内心は動揺してるように思うのは、俺の邪推か?


 陛下を庇う感じで転移した騎士団長は、目を丸くしてるな?


 あ、側妃が横に倒れた。

多分側妃は、何が短剣弾いたかまではわかってない。


「ソフィニカを……殺せなかったのは……残念よ。

けれどジルガリム……ああ、ジル。

ひとおもいで、なくとも……道連れ……」


 側妃はコポリと口から血を吐きながら、目を閉じた。


 側妃が絶命したかどうかより、教皇のミトラに収納された羊とアルラウネ、いや、やっぱり羊の方が気になるとか、どうしてくれるんだ。


「ヒュッ、ゴホッゴホッ、……っ、はあ、はあ」

「「お母様(ソフィニカ王妃)!」」


 そんな時、突如、王妃が息を吹き返す。

まるで喉を塞ぐ何かが取れたかのように。


 それはそれで、ホッとはした。


 弟妹も揃って駆け寄り、王妃の背中を2人してさする。


「陛下!」


 同時に、騎士団長は陛下を仰向けに寝かせて声をかけていた。


 俺も王妃を弟妹に任せ、陛下の方へと駆け寄る。


「これは……」


 教皇も陛下に駆け寄り、恐らく魔法で鑑定したんだろう。


 公爵は眉根を寄せてチラリと教皇を見てから、陛下を見つめたが、何かに気づいたようにしてこの場を去って行った。




※※後書き※※

……どうしよう……側妃がしまらない終わり方になってしまった……。

私の中の何かが修正を拒むぅぅ(´;ω;`)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る