456.忌々しい服装〜クリスタside
「何を企んでいるのです、クリスタ」
一通り下々の者達との歓談を終え、王族専用の控室で過ごす僅かな時間。
ソフィニカは私に小さく尋ねる。
今日は特に見れば見るほど、忌々しく感じるわ。
貴賓として学園祭を訪れた私以外の王族は、統一感のある服装をしていた。
とはいえソフィニカから服装についての打診はあった。
月影という有名デザイナーに頼むから、共にどうかと。
もちろん断った。
実は随分前、月影にドレスを頼んだのよ。
伝手が必須らしいけれど、それが手に入らなかったから相場の10倍はお金を出すとも言葉を添えたわ。
なのに不敬にも断られた。
側妃とはいえ、国王の正妻でもあるというのに。
圧力をかけようとした。
でも平民の営む商会は、ある意味で身の程を弁えていたわ。
平民や国外に販路を持っていたせいで、貴族の影響を殆ど受けなかった。
それどころかリュンヌォンブル商会は、貴族との裁判ですら事実上は勝ったような小賢しい立ち回りをしたわ。
そう、あの時裁判沙汰になった新興貴族の令嬢をけしかけたのは私よ。
たかが平民の商会が、世論を味方につけるような方法で貴族を退けるだなんて。
そんな立ち回り方を誰が予想できるのよ。
そのせいで私が月影のドレスを手に入れられるよう図らってくれる貴族は、いなくなってしまったわ。
なのにソフィニカの依頼は受けたですって?!
その上私のドレスもソフィニカ達とセットであるなら作る?!
そんなのついで扱いじゃない!
どれだけ馬鹿にしてくれるのよ!
口元まで出かかった言葉を飲みこみ、微笑む。
今はまだ
「企むだなんて。
私はただ、運命の恋人の1人であるソビエッシュ殿と言葉を交えたかっただけよ」
本当は孫のラビアンジェとの仲を取り持つよう頼みたかったの。
ラビアンジェの父親、魔法師団長は役に立たないんだもの。
先代とはいえ、それなりの影響力はまだ健在のはず。
次期当主であるミハイル=ロブールも領地経営を先代から学んでいるようだし。
今日はジョシュアがラビアンジェを陥落させるわ。
ラビアンジェだって無才無能なくせに逃げたり、隠れたり、躱す才能には長けているとはいえ、体を落とされれば否とは言えないはずよ。
所詮は血筋だけの役立たずな令嬢ですもの。
当事者であるラビアンジェを先代が後押しすれば、さすがの魔法師団長だって認めるわ。
「それより、よく手懐けてくれたわね」
「何の事です?」
「エメアロル。
あなたが奪った私の息子よ」
歯噛みしそうになるのを抑える。
思い通りに進めるには、やっぱりソフィニカは邪魔。
エメアロルにジョシュアのような価値はないけれど、私の物をこの女に奪われるのは許せない。
大体、ジョシュアには提案すらされなかった早期入学をなのよ。
どうしてスペアなんかが……。
「奪った?」
「ええ。
早期入学制度だなんて、今までに王族は誰も使った事がないわ。
第1王子のスペアにでも仕立てる気かしら?
でも王族の血筋でありながら、エメアロルは凡庸な魔力量よ。
その上、属性だって水と風に偏っている。
何より性格が気弱。
今の調子が悪いジョシュアの足元にすら及ばない子よ」
言いながら、ふと気づく。
そうか、ソフィニカの狙いは……。
「ああ、そうなのね。
血筋の上で足りなかったアッシェ家の後ろ盾でも得ようと考えたのね」
ソフィニカはロブール家の遠縁。
陛下はベリード家の血筋。
更に元ベリード公女だった王太后と元ニルティ公女だった前王妃は旧知の仲。
だとすれば第1王子の後ろ盾として足りない四公の血筋は、アッシェ家だもの。
図星だったみたいね。
ソフィニカは私に冷めた翡翠の瞳を向けながら、無表情を貫いている。
王妃でありながら、表情を取り繕う余裕もなくすだなんて。
やっぱり王妃に相応しいのは、私の方だったのよ。
陛下に嫁ぐ前は伯爵令嬢という立場だったのが悔やまれる。
でもこれでハッキリしたわ。
ソフィニカが王妃になれたのは、生家が侯爵家だったから。
所詮は無能なのよ。
まあ、あのロブール公女ほどではないけど。
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