445.お孫ちゃまとお孫ちゃん

「じゃなくて、話を聞いて!

学園祭の間、隠れていて欲しいの!」

「あらあら?

かくれんぼがしたいと?」

「違っ……いえ、もう……もう、それで良い……」


 なんてこと!

若紫的遊びのお誘いだったのね!

意図が伝わってホッとしたのか、若紫がガクッと項垂れる。


 可愛いお孫ちゃま達との可愛らしいやり取りに、お祖母ちゃん、気を良くしちゃったわ!

王女が髪を纏めている見覚えしかないシュシュに、軽く守護魔法かけちゃう!

もちろんバレないようにチャチャッとね!


 このシュシュは昨年度にうちのクラスが販売した幸運のシュシュ。

キャスちゃん曰く、ぼったくりシュシュだったかしら。


 王子は……。


「な、何故服を見て……」


 上着のカフスね!

何か呟いたけれど、無視してチャチャッとやっちゃう!


 どうせ秘密の小部屋で過ごすつもりだったもの!

今日のお祖母ちゃんは、既に豚骨仕事人から離脱しているの!

可愛いお孫ちゃま達にお祖母ちゃん、いつまででも付き合っちゃう!


「左様ですのね!

承知しましてよ!」

「ほ、本当ですか?」

「ええ」


 返事をすれば、王子が私の腕を掴む指に力を入れて尋ねる。

もちろん痛くない程度に加減しているわ。


 そんなに遊びたかったのね!


「ずっと?」


 次は王女。

もちろんニコリと微笑んで頷くけれど、食い入るように私の真意を確かめようとお顔を見つめてくるわ。


 子供の体力は底なし沼。

けれど今の私も前世からすれば未成年。

体力は有り余っているから平気よ。


「学園祭が終わるまでなら、見つかるまでいつまででも隠れておりますわ。

終わると片づけがありますから、それまでなら。

それにこれでも、かくれんぼは得意ですのよ」


 お孫ちゃま達に色よい返事を返しつつ、秘密の小部屋に隠れるのは止しておこうと考える。


 あの部屋に入っていれば、お孫ちゃま達ではまず見つけられない。

お孫ちゃま達がいつまでも私を見つけらなくて、悲しい思いをさせるのは駄目よね。


 徹夜明けだし、確か学園祭の開始数時間は王族も貴賓として貴族達と挨拶を交わすのが慣例、だったかしら?

お兄様が去年そんな事をチラッと言っていたような?


 もちろん私も参加するだろうって聞かれけれど、参加しろとは言われなかったから不参加にしたわ。

今年もそのつもり。


 そうね、1度秘密の小部屋で仮眠して、頃合いを見てお孫ちゃまと鬼を交代しましょう。


「理由は話せなくても?」


 なんて思っていれば、王女は何を心配しているのかしら?

疑り深いわ。


「あらあら?

子供の遊びに理由は必要ですの?

ああ、でも私は一足先に隠れるので、お父様とお母様には断りを入れてから、私をお探しになって?」

「もちろん!

だから公女は見つからないように隠れていて!」

「そう致しますわ」


 ふむ。

この流れなら、キラキラと目を輝かせる若紫が最初の鬼になるとみた!


「あのっ……兄上と母上に気をつけて。

どうか……」


 立ち上がった王子が、何故か顔を曇らせる。


 兄上とは第1王子と第2王子のどちら?

母上については、呼び方からして側妃の事ね。

そういえば第2王子は休学中だった。

だとすれば兄上は、第1王子の事?


 それにしても、どうして王子は思い詰めた表情を?

 とはいえ理由を私から聞いて水を差すなんてしないわ。

どうしてか今年14才となる第3王子は、学園には来年度入学になっているの。

本来なら16才になる歳に入学なのに不思議ね。


 実兄である第2王子の不始末フォローが理由なら、ご愁傷様だけれど。


 もちろん忘れた頃にポロリと現れる、早期入学制度の活用だから問題ないわ。

王族や四大公爵家を含めた高位貴族に多いかしら。学業の水準を満たせば可能なの。


 だから余計に期間限定の子供らしく遊べる時間を大事にしたいお年頃に違いない。

それに早期入学予定の王子が学園祭で無邪気にかくれんぼなんて、バレると怒られそうですもの。


「もちろんでしてよ」


 ニッコリ微笑んでわかったと頷けば、王子は再び顔を真っ赤にしたわ。

風邪が急速に悪化中?


「かくれんぼするより休んだ方が……」

「ここにいたか。

大人しく控え室にいると言うから、先に…………お前達、俺を差し置いて何を楽しそうに襲われている?」


 言いかけたところで、不意に前方から素敵な低音ボイス。

声の主はレジルス第1王子。

こうして並ぶと、同母妹の王女とどこか似ている。


 朱色の瞳は第3王子とお揃いね。


 第1王子も前世感覚ではお孫ちゃん。

けれど残念。

どことなくほの暗さを瞳に宿らせた今は、間違いなくお孫ちゃま達のような可愛らしさを感じられない。



※※後書き※※

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