429.指輪〜ジョシュアside
「スリアーダ様が王妃になってからは疎遠になったと話していたけれど、色々と頼まれ事をするくらいの仲ではあったみたいね。
当時の祖母は学園に入れる年齢ではなかったけれど、スリアーダ様の侍女として何度も出入りしていたと言っていたわ。
だから祖母は気づいたのよ。
ベルジャンヌ王女の母親が誰なのか」
信じてきた稀代の悪女の話を根底から覆していく内容に、ゴクリと喉を鳴らす。
そんな私を見た母上は、実に愉しそうに唇の端を歪めた。
「そして時が経ち、私は側室になった。
その時は忘れていたけれど、とある伝手で真相に辿り着いたのよ」
「ある伝手?」
「ええ。
あなたを生んでしばらくした頃よ。
陛下は1度だけ私の元に来て、労ってくれたけれど、以降は全く来なくなった。
眠れない夜を過ごした私は、祖母の話を思い出した。
あなたを連れ、共も連れずに1人でベルジャンヌ王女の離宮へと訪れたわ。
そこで昔をよく知る者に出会った。
名前はジャビ」
ジャビ?
初めて聞く名前だ。
「その時よ。
ベルジャンヌ王女にまつわる昔語りを聞いたのは。ジャビは全てが逸話だと言ったけれど、私は祖母から直接話を聞かされていたのだもの。
全て真実だと確信した」
「ジャビとは何者なのですか?」
「亡くなったベルジャンヌ王女が遺した人型魔法具だと言っていたわ。
無念の死を遂げた王女が最期に遺した語り部人形だと」
「人型魔法具……しかしそれだけでは……」
母上が嘘を吐いているとは万が一にも思わない。
しかし騙されているのではないかと、一抹の不安に襲われる。
「それだけではないのよ。
ジャビは王女の遺髪を見せてくれた。
私の知る白桃の髪色はシャローナ=チェリアの父親と同じ。
その髪色に銀の混ざった髪色は、ベルジャンヌ王女の色そのものだった。
ジョシュアも、まさかこの私が王家の銀を見間違えるとは思わないでしょう」
「それは……もちろん」
王家の直系に現れる銀色は、祝福名を与える名もなき聖獣からの祝福の表れだと言われている。
魔力を持つ者なら、ただの銀色と見間違えるはずのない特別な色だ。
「その時、今後の私の影響力を増す為にと、ジャビはある力を授けたの」
「ある力?」
「ふふ……教皇直伝だと言っていたけれど、どんな力かは秘密よ。
ジョシュア、この母を信じなさい……ね?」
艶やかに微笑む母上はゆっくりと立ち上がって私に近づき、私の頬を両手で包んで私の瞳を覗きこむ。
同じ碧のはずなのに、やはり暗く感じるのは何故なのか……ああ、でもそんな事はどうでも良い。
母上の言葉に疑問を持たず、ただ言われた通りにする事こそが……私の幸せに繋がる。
「だからあなたがうつつを抜かしたシエナでは駄目だったの。
平民の血で薄まったチェリア家の血では意味がない。
欲しいのは王家の血も多少混じったロブール家の血と、チェリア家の血。
そしてチェリア家の血が色濃く出たあの髪色と、ベルジャンヌ王女と同じ色の瞳をしたラビアンジェ=ロブール。
あの公女だからこそ、価値がある。
きっと王族のあなたとの子供なら、ベルジャンヌ王女のような特別な子供が生まれるわ。
1人目で駄目なら、2人、3人と生ませれば良いのよ。
むしろそんな特別な子供がたくさんできるのもいいわね。
ジョシュアが特別な子供達の父親になったら、陛下もあなたを見直すわ。
子供の父親として後ろ盾は大事だもの。
あなたを立太子してくれるに違いない。
何より、私は特別な子供の祖母になれる。
そうすれば今度こそ陛下は、私を特別に扱うわ。
王妃よりもずっと特別に……」
うっとりと話す母上は、心から父上に恋い焦がれている。
幸せな未来を確信して、頬を紅潮させる様は初心な少女のように見えた。
「そうだわ。
ジャビからジョシュアの力になるようにと、魔法具を貰っているの」
ふと思い出したかのように、母上は懐に忍ばせていた何かを取り出す。
「ジャビの作った人型魔法具をいつでも呼び出せる指輪よ」
そう言いながら私の左手を取り、小指に桃茶色の木製らしき指輪をはめた。
すると少し弛かった指輪がシュ、と小指に絡みつくように縮む。
「シュア樣、お久しぶりね」
途端、背後から聞こえたのはよく知る……シエナの声だった。
「もう、離れないから」
そんな言葉と共に背後からシエナの声をした何者かに抱きつかれた私は、得体の知れない恐怖に体を竦ませた。
ギチリ、と指輪が小指に食いこんだ気がした。
※※後書き※※
いつもご覧いただきありがとうございます。
フォロー、レビュー、応援、コメントにいつも励まされております。
サポーターの方には、なかなかお返しの限定公開話ができずに申し訳ありませんm(_ _)m
最後の最後にホラーっぽい感じになりましたが、ジョシュアsideはこれにて終了です。
ベルジャンヌの血縁関係、側妃は何がしたいんだ的な謎は整理できたかなと思うので、次いきます。
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