394.ブーイング

「会いたかったわ……私、頑張ったでしょう」

「クェ、クェ」


 目の前のリアちゃんを、そう言って抱き寄せる。

リアちゃんも抵抗せず、むしろ私に頬をスリスリしてくれた。


 はあ……羽毛と獣毛のハーモニー__ブツン。


 あらあら?

私の中の理性の切れる幻聴が……本能が暴走しちゃうわ!


「クェエ゙?!

クェクェクェ……」

「ご褒美のモフモフ吸い……ズヌォ〜、はぁ、たまらん〜、ズヌォ〜、んふ〜、生まれたての羽毛と体毛〜、ズヌォヌォヌォ〜、たまらんのぅ〜、たまら〜ん」


 抗議の鳴き声らしきものが遠くで聞こえるけれど、これも幻聴よね。

顔を傷つけないよう配慮している、柔らかあんよの踏ん張りが、更に私の本能を刺激してくるわ!!

止められない、止まらない!


「ングェ〜……」


 何だか断末魔のような鳴き声……気の所為よね。


 と思った途端、私の顔の接地面の力と抵抗あんよがフニャリとなくなって……嬉しい!

受け入れてくれたのね!

期待に応えちゃう!!


「ズヌォ〜、ズヌォ〜、んふ〜、はぁ〜、幸せ〜…………。

まあまあ?

孵化で疲れてしまったのね。

お疲れ様」


 ふと、全身の力もフニャフニャになっていた事に気づいて、理性をかき集めて顔を上げた。

そうね、孵化したばかりだもの。

長時間お腹を顔で圧迫したら、疲れて眠っちゃうわよね。


「酷いぜ、ヒャッハー!

生まれたてはキツイぜ、ブ〜ブ〜」

「「「「「ブ〜ブ〜」」」」」

「……恍惚の、顔で……惨、い……」


 ドラゴレナ夫妻の曲調がまるでブーイングね?


 教皇は耳を押さえ、這々の体で意味不明の言葉を呟いているから……錯乱中?


 悪魔の力もほぼ吐き出したみたい。

残りは心の引っかかりを取り除きさえすれば、契約は綺麗な形で破棄できそうね。


 そこでディアが少しも動いていない事にも気づく。


 卵の殻と、固定していたベルトは瞬時に亜空間へ片づけてディアを確認……え?


「ディア?」


 そっと片手で甲羅を支えて、持ち上げた。


 見慣れた赤色から、どこか薄氷をおもわせる白藍しらあい基調へと体の色が変わっている?

名残りは光の加減で5色の光が見える事。


 観察する限り、リアちゃんから継いだ聖獣の力を全て譲渡して、自ら発生させ、育んだ聖獣の力を定着させたという事かしら。


 ディアを改めて魔法で診てみれば、なるほど。

特殊な状況で聖獣になったディアならではね。


 リアちゃんの聖獣の力を呼び水のようにして、自分の中に新たな聖獣の力を目覚めさせていたなんて。

だからリアディアなんていう、一種の相反する熱操作となる力を扱えていたのかもしれない。


「ずっと頑張っていたものね」


 片手にリアちゃんを抱えたまま、もう片方の手に載せたディアを抱きしめる。

元々の白灰色に近い色も、可愛らしいわ。


「さて、仕上げでもしましょうか」


 2体を抱えたまま、ニコリと教皇に微笑みかける。


「何……くっ、それよ、り……腹を……隠し……令嬢が、恥を」

「お腹?

あら、いつの間にか服に大きい穴。

そんな事より、

私が誰か、まだわからない?」


 お腹って何かしらとリリの目線を追えば、卵の殻が消えて、空いた穴からお臍が見えてしまっていた。

これくらいどうという事もないわ。

まだ若いから、お腹が多少冷えても問題ないもの。


 瞳にかけていた幻覚を解除して、本来の瞳を顕にしつつ、前々世で女の子だと思って名づけた名前で呼びかけた。


「……え……」

「さあ、聖獣

一緒に悪魔の力を滅するわよ!」


 抱えていた2体は、タイミング良く奥さんズから伸びてきた蔦に預ける。

蔦を編んで瞬時にベビーベッドを作る奥さんズ。

やるわね!


 私も自分の亜空間から、前世で馴染みのある三味線を取り出した。


 私が無才無能だと信じこんでいたらしいリリは、瞳の色や、きっと今では誰も知らないはずの名前を呼んだだけでなく、亜空間収納だなんていう高位の魔法を当然のように使用したから、驚いたのね。


 けれど驚愕したお顔は無視して、今代のドラゴレナに目で合図を送ると、すぐにジャララとドレッド音が私の隣から聞こえた。

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