392.増し増し聖獣音波と破水

「オゥ〜イェ〜、オゥ〜イェ〜、デ〜ス、デ〜ス」


 ハッ、隊長が男性特有の低い、いわゆるハードボイルド的良い声でゆっくりと合いの手を求めたわ!


「「「「「「「ディーイーエーティーエイチ

デ〜ス!!」」」」」」」


 私も混ざって7人で応え、隊長のやる気を盛り上げていく。


「なん、です……それ……」

__ジャララ!

__ジャララ!

__ジャララ!


 隊長が激しいヘッドバンキングを始めたわ!

教皇の声がドレッドな枝で聞こえないから、無視でいいわよね!


「ゥイェェェェェェ!!

地獄は灼熱!

ベイベー!」

__ベンベンべべべべン!

「「「「「「「ベイベー!」」」」」」」

「うっ……ゲフォッ、ガハッ……」


 教皇の、のたうち吐き出しツッコミすらも霞む激しさね!

どのみち、あちらの世界のスペルだから、言ってもわからないでしょうし。


 皆で更なる合いの手を、力の限り入れる。

もちろん頭に移動したディアも一緒よ。


「「「「「「「キャ~!

カッコイイ〜!

デ〜ス!」」」」」」」

「頭、に……赤い……亀?

いや、鼠?

ぐあああ!」


 ディアの歓声に教皇が反応するも、結局は押し寄せる聖獣音波に翻弄される。


 教皇の体からは、黒い煙がブワッと一気に立ち昇る。

すると羽根が完全に抜け落ちて、翼が小さくなって、消えた。

体も元の大きさに戻った。


 ……あらあら、仮装が剥がれてしまったわ。

でもお肌はまだ褐色……これはこれで……熟腐腐腐ウフフフ


 でもまだまだ、これからが本番なの。

でも、そうね。


「ディア、薄い板状の表面ツルツル凍土で、教皇を囲える?

含む氷はいつもより2割増のイメージよ。

教皇がドレッド夫妻のオンステージが見えるように、一方向だけ隙間を開けた状態が良いのだけれど」

「は〜い!」


 はぁん!

何なの?!

うちの天使のお返事、たまら〜ん!!


 なんて鼻の下が伸びそうな私には気づかず、私の頭上のディアは頭頂部で器用に立ち上がり……。


「カモン、凍土!

イエーイ!」


 やだ!

ロックな天使の厨二病的召喚!

滾る!!


 もちろんお願いした通りの凍土を、一方向だけ開けた状態で出現させてくれたわ。

お腹に私作の天使用絵本を読み聞かせてくれていたせいか、いつの間にか言葉も流暢になって……お母さんは天使の急成長に感無量よ!

泣いちゃいそう!


「ノッテキタキタキタキタ〜!!

キイェエェェェェ〜イ!!」

__ベンベンべべべべン!!


 感涙しそうになった直後、更なる絶好調な隊長のドレッドヘアに、ポポポンと花が咲き乱れる。

藍色に金が散った花色よ。

他の聖獣ちゃん達の瞳と同じね。

三味線の音も勢いづいて、激しくなる。


「「「「「デェェェ〜ス!!」」」」」

__ブッフゥォ〜!!

__ドォンドンドォンドン!!

__シャララシャララシャララ!!

__ピィュイ〜!!

__ポンポロロンポンポロロン!!


 奥さん達もフルーティーな花の香りをブワリと纏い振り撒き、楽器を吹き鳴らす。


「ギャアアアアァァァ!!」


 教皇が更に苦しみ、上を向いて叫びながら仰け反った。

ディアにお願いした凍土のお陰で、増し増し聖獣音波は教皇の後ろから反響して、更に増し増しが2乗ですものね。


「ガハッ、グフッ……ま、だだ……まだ……」


 まあまあ、なかなかのしぶとさ。

教皇の柔和だったお顔は、どこへ行ったのかしら。

私を見据えて睨みつけているかのよう。


「諦めて、たまる、かあぁぁぁ!!」


 叫んで渾身の力で立ち上がり、体内魔力が荒れて魔法が使えないだろう教皇は私の顔を、いいえ、違うわね。

眼球を目がけて腕を伸ばして突進してきた。


「あらあら?」


 もちろん満身創痍の教皇だもの。

動きは遅い。

私の敵では……。


 躱そうとしたその時、再びボコンとお腹に衝撃が走り、パン、と乾いた音と振動がお腹に伝わる。

破水したのかしら?


「ぅっぐ……がっは……」


 そう思ったのも束の間。

教皇が後ろに仰け反り、尻もちを着いたあと、再びドス黒い血を吐く。


 教皇の鳩尾の部分の服が焼け焦げているわ。

卵から小さいながらも、マグマのような色の火球が飛んで当たったから、そのせいね。

燃料源は卵の殻。


 そうね、卵だから破水はあり得なかったわ。

うっかり前世で長女を出産した時に破水した記憶と、シンクロしてしまったわ。


 卵がちょっぴり砕けたみたいだけれど、それはつまり……そう、つまり……。

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