388.トリック・オア・トリート〜レジルスside

「ラビアンジェ……折角逃がしたのに何してくれてる……」

「チッ」


 ミハイルの腹立たしげな言葉は、植物に対してだろう。


 だが教皇が舌打ちして、植物と公女から距離を取った意味がわからない。

彼女の美しい藍色の瞳を狙っていたのではないのか?


「ラビ〜、オイラにも飲ませるジャ〜ン!」


 植物はマイペースだな。


 教皇によって乱雑に枝打ちされた枝も含め、全ての枝が細く伸びながら何又にも分かれ始めた。


 かと思えば枝が幾本も折り重なっていき、女性がよくやる三つ編み風の束が幾つもできた。

紫緑色の葉がシャラシャラ鳴りながら、束に再び生える。


 酒を催促するかのようにして、葉がピョコピョコ動き、更に音を重ねていった。


 どうでも良いが、声の感じからしてコイツは雄。

俺だってまだ公女に出した事がないのに、甘えた声で植物が強請るな!


「ドレッド隊長ったら、上で開宴中の宴の気配を察知したのね。

ドレッドヘアも素敵。

さすがよ」


 ドレッド隊長?

やはり公女とは知り合いだったのは間違いないようだ。

今までも俺の知らない所で植物は甘えてきたといのか?!


 燃やすか?

ちょうど公女はそう言った後、ジョッキの中身を半分ほど、葉の上にぶちまけたからな。

葉から飲む仕組みかは知らんが、燃やすにはちょうど……。


 不意にミハイルが俺の肩に手を置いた。

見やればドン引きした顔で首を左右に振る。


 心の声がバレている?


「ふふふ、教皇も宴の為に仮装するとは!

やはりトップが率先して羽目を外してこその、無礼講!」

「……は?」


 そんな俺達のやり取りなど、公女は意にも介さない。

言葉の内容は意味がわからないが、そのキラキラした笑顔は是非とも俺に向けて欲しい。


 教皇も燃やすか?


「そんなとぼけたお顔をしても、誤魔化しきれておりませんわよ!

その格好!

それはそう、どこぞの国でとある時期だけ大流行りとなる仮装パーティー!

トリック・オア・トリート!

そう、つまりはハロウィンですのね!」

「……何を言っているのですか……」


 教皇は先程とは打って変わって、心底理解できずにいる。

未確認生物を初めて確認したかのような、そんな表情だ。


 間違いなく俺もミハイルも、意見は教皇と同じだろう。

もちろん俺は公女の素晴らしい発想に、いつでも脱帽して……。


 不意にミハイルが再び俺の肩に手を置いた。

見やれば再度のドン引きした顔からの、やはり首を左右に振る。


 またしても心の声が?


「頼むから、今は気持ちを落ち着かせてくれ」


 ミハイルの菫色の瞳の煌めきの中に、苦痛が混じっている?

どうした?

瞳の透明感が変わってから、何とはなしに困惑しているのが伝わってくるが……。


 そこでふとミハイルの祖父である、ソビエッシュ=ロブールの特殊能力を思い出す。

教皇の魔力に宿る魅了と同じく、ロブール家に時々現れるという固有スキルのような力だったはず。


 俺が魔法呪に苦しめられた当初、移されたベルジャンヌ王女の離宮で見つけた日記に、その事が書かれていた。

確かその能力故に、ベルジャンヌ王女の婚約者からべきであったのだと……。


「またまたぁ!

いつの間にか化粧で塗りたくったらしき、艶めく褐色の肌!

背中に翼、そして隠してらしたであろうムキムキマッスルが、大ハッスルしてらっしゃいますもの!

さしずめヤンチャ系堕天使マッチョがテーマなコスプレとお見受けしますわ!」

「ヤンチャ?

堕天使……マッ?

え……ハッス……え?」


 教皇は公女の意味不明度抜群の言葉にかなり戸惑い、戦意は完全に消失したのが見て取れる。


 もちろんそこの植物以外に理解できる者は、ここにいない。

とりあえず想い人がとんでもなく楽しそうだから、何でも良いか。


「正にハロウィン!

んふふ、これで既に落ちかけている教会の神官達も、心置きなく堕天の道へと転がり落ちる事ができますわね!」

「……落ちかけ?

え?

ちょっ、公女、貴女本当にこの短時間で一体何をして……え?」


 落ちる……堕天の道?


 ハッ、まさかまた腐信者を増やしたのか?!

これ以上公女の信者を増やすのは、認可できかねる!



※※後書き※※

ハッピーハロウィ〜ン(≧∇≦)/

もう少し先ですが、そういう時期なので(´∀`*)

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