363.唯一色づいた少女〜教皇side
(おや?)
突如様子が変わった第2王子に、内心首を傾げる。
アッシェ家の三男もまた、様子が変わった。
学園に入学したばかりの婚約者に、手を出すかもしれない。
王族でありながら、自分より立場の弱い者に見苦しく喚き立てる振る舞いには、特に驚きはしていなかった。
流石、
そう腑に落ちただけ。
『……は?
……可愛らし……何っ……そんな、顔をっ……』
なのにそう思っていた王子は、公女がため息を吐き、何かを懐かしんだ発言をした途端、何故か頬を染めて狼狽えた?
『も、もういい!
ミハイルもお前を探していた!
ふん、叱られてしまえ!
ヘイン、行くぞ!』
『ハッ……あ、ああ』
程度の低い捨て台詞を吐いて、慌てたように公女の横をすり抜ける2人。
それを目で追うようにして振り向いた公女に、ハッと息を飲む。
光の加減だったのは否めない。
けれど確かに、ほんの一瞬だけ、金の虹彩を宿したように見えた、藍色の瞳。
公女の姿だけが色彩を持ち、そこだけ色づく世界。
まるでただ1人にだけ向けた、穏やかに微笑む姫様のような表情に、涙が溢れてくる。
この少女と話したい!
そう強く願い、魔法で隠していた気配を解こうとした、その時だ。
『ふふふ、秘密の小部屋を掃除してたら、置いてた道具が懐かしくて、うっかり入学式に遅れたけれど、遅れてみるものねえ』
公女の言葉と共に、次の瞬間には、自分でもわかるくらいに表情がスン、と戻る。
『反抗期だったあの子達を思い出して、一瞬懐かしくなったものの、あの子達ったら中身はともかく、顔が整っているだけあるわ。
ノーマル学園物から、アブノーマルな禁断ものまで……んふふふ……はあ、たまらない……』
言葉が進むにつれ、淑女らしからぬ恍惚とした表情。
背筋が薄ら寒くなる事など、一体いつぶりだろうか。
とりあえず見つかったら、食われる。
何にかはわからないけれど、アレは危険だ。
本能的に魔法を強化してしまった自分に、内心戸惑った。
けれど、正解だと思う……多分。
その少女の顔が……変た……いや、何でもない。
というか、あれは本当に
ちょっと自信が無くなって…………あ、普通に戻った……祖母似だった。
それよりも唯一無二の麗しい姫様と重ねた自分が、途方もなく許せなくなり、とんでもない遣る瀬なさに襲われてきた。
何の精神攻撃を不意打ちされたのだろう……。
『さあさ、ひとまず教室に……先に職員室かしら?
目の保養もできそうね。
学園は楽園よ〜』
公女でありながら不名誉なはずの最下位クラスとなっている事も、入学式に参加しなかった事も、歯牙にもかけない軽快な足取りと口調で去って行く少女。
この時は声をかけるのを、止めた。
というよりも…………出来なかった。
けれど今日こそは、少女に会って、あの瞳と視線を交わそう。
悪魔に魂を売るような真似をして、何十年も待ち続けた、姫様の
あの変た……妖しい顔でさえ無ければ、面影だってある。
「第1王子もロブール公子も、大人しくお帰りいただけたようで、何よりです。
日も落ちましたし、貴方も自室へ戻って下さい。
ご苦労様でした」
「はい」
しずしずと、出て行く背中を見送る。
私の魔力の活性化はもう止めている。
一晩寝れば、彼も元に戻るはず。
私にとっては大した苦でもない、しかし興味など少しもそそられていなかったはずの、離縁手続きは教皇である私が直々に終わらせた。
その甲斐は、どうやら私の中にもあったようだ。
自ら処理したのもあって、僅かばかり溜飲が下がる。
運命により結ばれた夫婦の息子が、離縁。
姫様の元婚約者であり、家門を選んだあの男にとっては、さぞかし不名誉であっただろう。
姫様に害しかもたらさなかった、甘い戯言が大好きなあの女。
息子と姪の関係が破綻し、これからその姪には、更に酷い現実が突きつけられる。
あの女なら、間違いなく胸を痛め、自分を責めるはず。
王家と四公、そして運命の恋人達……私から姫様を奪った者達。
生前のみならず、死後も姫様1人に謂れのない罪を背負わせただけでなく、悪し様にする
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