362.公女の入学式〜教皇side

「失礼します。

猊下、お2人を見送ってまいりました」

「そうですか。

ご苦労様でした、ナックス神官」


 ノックに許可を与えれば、ナックス神官が報告に戻ってきた。


 未だに私の魔力に影響を受けているのか、瞳には陶酔さが窺える。


「お手を煩わせて申し訳ありませんでした。

書類も猊下直々に処理していてだいて……」

「そろそろ夕餉の時間でしたからね。

こちらの都合もありますし、外部の方の都合に合わせて差し上げる必要もないと思っただけの事ですよ」


 本心をあけすけに、けれど穏やかに告げる。


 邪魔な者達を目の前から消し、自ら罠にかかって手の内に飛びこんできた少女を、早く直接この目に入れたかった。


 あの血筋を色濃くその外見に宿し、その上魔力が低く魔法も生活魔法レベルしか扱えない。

何とこちらに都合の良い、無力な少女だろうか。


 あの少女を初めて見た時、衝撃を受けた。

あれは少女があの学園に入学した時。


 王立学園の入学式と卒業研究発表、そして卒業式には、教皇である私も出席せねばならない。

もう何十回と訪れた学園の入学式へと、足を運んだ。


 正直、いつも面倒だと思っていたけれど、あの年は、かの夫妻の孫娘がいる。

そう期待していたと思う。


 ただこの時の本命は、実は養女の方だった。


 何せ彼らの長男で、駆け落ちして除籍された息子は、その面立ちが母親に良く似ていたから。

白黒の色しか識別しない私に色はわからないけれど、聞く限り同じ色。


 彼の娘ならば、と養女の方に期待していた。

もちろん今では元がついてしまうその養女は、期待外れに終わったが、この時は知る由もない。


 けれどかの公女の名前は、1年Aクラスの新入生の名前の読み上げでは、呼ばれなかった。

Bクラスにも……Cクラスにも……。


 ロブール第1公女は、魔力が低く無才無能。

あらゆる責任から逃走する、との噂は時折耳にしていた。


 だから成績優秀者から選ばれる、新入生代表挨拶が別の生徒だった事には、さして驚かなかった。

けれどまさかのDクラスだった事は、幾らか驚いた。


 ただ、あの時は名前を読み上げられただけで、本人はその場にいなかった。


 出会ったのは、その後。


 入学式を終えて心なし落胆しつつ、貴賓として学園長に挨拶も終えて馬車へと向かう頃。


 人気のないはずの通路で、何者かが騒いでいた。


『ラビアンジェ=ロブール!

入学式を無断欠席していながら、よくも校内を歩いていられるな!』

『あらあら。

お久しぶりですわ、ジョシュア第2王子殿下。

ふふふ、12才の頃と変わらずの元気なお声に、安心しましてよ』

『はっ、相変わらずだな!

養女であるシエナと比べ物にならないほど劣る、無才無能が!

王族である私を、また愚弄するのか!』

『まあまあ、俺様はお止めになりましたのね。

ちょっぴり残念ですわ』

『何だと!』

『あらあら、勘違いなさらないで?

褒めておりますのよ?』

『どこがだ!』

『もちろん、12才の厨二病的可愛らしさを、ですわ。

今思い出しても微笑ましいくて……ふふふ、懐かしいわ』


 チュウニビョウとやらが何なのかは、わからなかった。

ほうっと息を吐いて頬に手をやる公女の、何故か色づいて見えた、桃金の髪。


 理由は今もわからない。

あの時も、現在もそれならそれで良いと、どうでも良く思う。


 ただあの色は何十年も昔に見た、ロブール前夫人そのものの髪色だったのは、間違いない。


 お付きの神官達を先に行かせて、私だけその場にひっそりと留まる。

念の為、自らの気配を魔法で消して、幻覚で見えなくする。

 

 あの場所からは後ろ姿しか見えず、どう見ても婚約者に怒声を飛ばす、品のない第2王子に非があるようにしか見えなかった。


 王子の後ろには、無言だが険しい表情で騒がしさを醸し出す、確かアッシェ家の三男坊。


 仮にも四公の公子で、騎士科だ。

暴言もいただけないけれど、彼がいるなら流石に怪我は負わせないはず。


 もしあの王子が手を出すなら、わざと止めに入って公女と話す機会を作るのも良い。


 そうしてこの後、私はあの場に留まった自分の判断が正しかったと喜んだ。



※※後書き※※

いつもご覧いただき、ありがとうございます。

フォロー、レビュー、ポイントにいつもやる気スイッチ押されてますm(_ _)m


子供達が夏休み入った関係で少しバタついている為、ほぼ毎日更新の頻度が来月末まで難しくなるかもしれません(;・∀・)

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