346.体〜ルシアナside
「ガバッ、ゴボ……」
赤の混じる泡を吐きながら、体が沈んでいく。
言葉そのまま、海の藻屑となって……ああ、嫌だ……嫌……死にたくない。
けれど、こんな体で生きていけない……。
右手を光を反射させる水面に向かって上げる。
目に映るのは……5本の内3本の大きな爪が折れた異形の……。
あの時、針の穴のような歪みに自分の魔力を通して、内側から破壊するはずだったのに。
『ルシアナ!
駄目よ!』
あの時叔母は、明らかに焦っていた。
だからこれが正しく叔母を殺す方法だと、直感した。
『それはあの方の仕掛け……』
__ドン。
けれど叔母が続けた言葉を言い終わらないうちに、額に熱と衝撃を感じた。
針穴に通していた魔力の元を辿り、雷矢を放つ魔法?
__ドン、ドン、ドン。
更に体をいくつもの熱の矢に穿かれる感覚。
痛いのか、熱いのか、痺れるのか、わからない。
液状化し始めた足下のスライムに足を滑らせ、そのまま後ろに倒れて転がりそうになった時、指輪から声が聞こえた。
義娘の……いえ、裏切り者の!
『お母様、復讐しましょう?
体を渡して?
そうしたら、愛しいお母様の代わりに、私がしてあげる』
『本当に?』
『もちろん。
愛しいお母様の体を傷つけたんだもの。
許せないわ。
だから……ね?』
正に悪魔の囁きだった。
この時はこの裏切り者の言葉を正しく理解できていなかった。
『……わかったわ。
お願いよ、可愛い私の娘』
どうしてあんな事を言ったのか……そう、きっと頭を雷矢に穿かれたせいよ!
全て叔母のせい!
突然、指輪がギチリと私の指に食いこみ、そこから何かが内側から侵食してくる。
それが私の首元まで届いたと思った途端、そこが弾けた……そういう感覚がした。
それから少しだけ、記憶が途切れて、目を開けた時には、場所は変わっていて、どこかの林の中。
私を見下ろす私の体には、何故か別の頭が生えていた。
あれは娘、いいえ、裏切り者の頭部だった。
老婆のように爛れてボコボコした顔が、やがて私のよく知る顔になったのだもの。
不思議に思いながら、火傷したようにひりつく体で起き上がって、愕然とする。
だって私の体が……緑の化け物になっていた!!
『どう……して……』
『お母様、素敵な体をありがとう。
愛しいお母様。
死なれるのは寂しいから、代わりの体をあげたの。
とっても強そうな体でしょう』
そう言った裏切り者は、黒ずんだ緑の眼を細めた。
背筋が凍る感覚に……。
『あ……あ……あああああ!
いやぁぁぁぁぁ!
返して!
返しなさい!
私の体!』
怖くなって、パニックになって、暫く悲鳴を上げて……それから……逃げた。
逃げて、逃げて、どこをどう走ったのか。
気づけば海上を走っていて、でもどこを目指して良いのかわからなくなって、やがて力尽きて、こうして水面に沈んでいく。
どうしてこうなったの……このまま死……。
「あら、まだ意識はあったのね」
「!!」
不意に、水の中だというのに、あの小娘__ジャビという名の裏切り者が話しかけてきた。
思わずカッと目を開けて、爪の折れた反対の手を、声のした方へ振るう。
なけなしの体力と息を使い果たし、ガボガボと水が鼻からも口からも入ってきて、苦しさに足掻く。
「お馬鹿さんね。
後先考えずに動くからよ。
ここまで逃げてきた根性は凄いけれど」
うるさい、うるさい、うるさい!!
お前のせいだ!
お前があんな呪いの指輪を渡すからよ!
「あら、私のせいにしないで?
ちゃんと伝えてあったでしょう?
魔法で命を意図的に殺めようとしないように。
あとは連続使用は1分が限界だし、貴女の得意だった風刃と火球レベルの魔法しか使えないって」
その言葉に、ふとあの時の話を思い出す。
『指輪の形をした魔法具。
これをはめていれば、一時的に魔法が使えるはず。
注意事項は、誰かの命を魔法で意図的に奪おうとしない事。
それから連続使用は1分が限界だし、貴女の得意だった風刃と火球レベルの魔法しか使えない事』
確かに言っていた。
けれど火球以外の魔法だって使えたわ!
「ああ、でも言い方が悪かったわね」
深く被ったローブで口元しか見えないこの小娘は、愉悦に歪んだその口で、私を絶望に突き落としていく。
※※後書き※※
いつもご覧いただきありがとうございます。
サイトトップに書籍紹介されている?!
急にPVが跳ねていてビックリですが、ありがたや〜(*´艸`*)
下の作品も合わせて見ていただいている方もいるので、こちらの更新も合わせて頑張ります!
ここ数日止まっていたので……目指せ本日夕方に更新!
【秘密多め令嬢の自由でデンジャラスな生活〜魔力0、超虚弱体質、たまに白い獣で大冒険して、溺愛されてる話】
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