345.3つの魔法〜ルシアナside

「どうして、こんな……」


 胸を占めるのは、絶望。

私はただ、呆然と呟くしかなかった……。


『ルシアナ?!

止めなさい!

ルシアナ!!』


 叔母の制止の声など無視して、ありったけの魔力をこめて、火炎放射を放った。

指輪からも魔力が供給されて、とにかく灰にしてやろうと長く放った。


 反射するように火炎が私に返ってきたけれど、元々魔法の扱いには長けていた。

それに私の魔法だもの。

自分を避けるように操作して、それを更に放つ火炎やな上乗せしてやる。


 叔母の周りには、3つの魔法が常時存在する。


 1つ目は防御。

これはそのまま、ただ防ぐだけ。

叔母の周りを薄く囲っている。


 2つ目は状態異常回復。

多分怪我も毒も、暗示の類も叔母には効かない。


 3つ目は反転。

叔母に向かう攻撃は、反転して術者にへと返っていく。


 とても高度な魔法。

普通は魔法具を身に着けるものだけれど、これらの魔法は叔母の体に染みこむようにして馴染みつつ、拒絶反応も、叔母の魔力も消費されていない。


 一体誰が、どうやって?

考えられるのは、叔母の夫である、先代ロブール当主である、義父。


 義父の実力が実際どの程度なのかは知らない。

けれどこんなにも緻密で高度な魔法を使って叔母を守る人間は、運命の恋人である義父しかいないじゃない。


 あの出来損ないを傷つけた日。

幸運にも一命を取りとめた事は、聞いていた。

出来の良い息子がどうにかしたのは言うまでもない。


 別に殺すつもりは無かった。

それは本当。


 だって側妃と内々に第2王子と出来損ないの婚約話をまとめたのよ。

妃教育と称し、早々に邸から城へ、あの出来損ないをお払い箱にする話も含めてね。


 婚約話は側妃の方からきたの。

それまでは、出来損ないを抹消する機会を窺っていたわ。


 出来損ないがどれだけ不出来でも、公女だから私は手を下せない。


 月に1度、必ず家族揃って夕食会をしなければならないしきたりや、叔母の息のかかった昔からの使用人が監視していたのもある。

息子が兄としての責任を感じて、妹を庇っていたのも大きいわ。


 そんな時、あの呪いの塊の存在を知った。

教えてくれたのは、茶会という名の交流会。

側妃の息子のお披露目会でもあったわね。


 その時は第1王子が王族直轄地のどこかで病気療養中だった。

場所は秘匿されていたんじゃなかったかしら。


 その時、側妃の筆頭女官が私に耳打ちした。


 王妃の生家に稀代の悪女が使ったとされる呪物が隠されているのは本当かと。

呪物は触れるだけで死ぬらしい、眉唾と呼ばれる話。


 もちろん知らなかったけれど、王妃の生家はロブール家の傍系で、稀代の悪女が使ったかもしれない魔法の呪いとやらにも、興味を引かれた。


 ロブール公爵夫人の立場を使って調べてみれば、本当に存在していたようだった。


 だから出来損ないを連れて、わざわざ格下の傍系の家に行ったのよ。

都合良く始末できるかもしれないもの。


 なのに憎らしい夫の部下が、出来損ないを連れて邸に戻した。


『二度と公女に手を出されませんよう。

貴女はロブール公爵家の外の人間であって、公女とは違う。

次に手を出せば、罰を下されると思え。

魔法師団長からの言伝、確かにお伝えしましたよ』


 あの夫なら、間違いなくやる。

凍えた目を向けてきた部下も、言外にそう脅してきたのが、今でも脳裏にこびりついて離れない。 


 だから少しずつ私の息のかかった使用人で邸を固めて、いつも治癒師を傍らに置き、息子に強く口止めをする羽目になったのよ。


 それでも年々、出来損ないを鞭打つだけでは治まらなくなってきた。


 だから婚約の話にも飛びついた。

とにかく早く邸から追い出しておきたかった。

その計画が崩れ、怒りの全てが憎しみに変わって、出来損ないを殺しかけた。


 その後は、つい最近まで魔力を封じられ続けた。

突然だったわ。

どす黒い魔法陣が現れて、少しずつ体を覆って、最後は全身を黒く覆った。

体に在った魔力は、何かに蹴散らされ、まともに貯まらない。

それでもいくらか魔力はあるのに、魔法の発動まで至らなくなった。


 きっと夫がやったのよ。


 何度も魔力を戻そうと封じの力を分析し続けた。

魔法の発動を阻害する根源を見つけようとし続けたせいか、魔法の解析能力だけは上がったみたいね。


 異なる3種の魔法をかけられた叔母の体に、小さな綻びを見つけた。


 針の穴のように小さな綻びを。

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