329.ロブール家の気質〜国王side

『養女は平民の血が混じっていたではありませんか。

ジョシュアが側妃である私の息子だからと、馬鹿にしてらっしゃるのかしら』


 側妃はライェビストの突き放した物言いに、侮蔑されたと感じたのだろう。

青みのある金の前髪が軽くかかる、碧眼の双眸に怒りを滲ませる。


 __ふぅ。


 余は小さく、目の前の男は普通に、同時にため息を吐く。


 それが側妃の怒りを煽ったようだ。


『……っ、これみよがしに。

公爵、貴方の義娘は影からの報告にもあったように、それらしい、欺瞞にまみれた娘でした。

そもそもが不適切な娘です。

確かに逃げ癖はいただけません。

しかしジョシュアの妃は、ラビアンジェ=ロブール公女でなければならないのです!』


 やはり側妃は、目の前で特に感情も見せておらぬ無表情な男が、最終どう判断しているか、わかっておらぬな。


 それにしても、何故に側妃はあの公女にこだわるのか。


『それは何故なにゆえだ?

ずっと不思議であった。

余もどちらでも良いが、側妃に任せると1度口にした故、尊重しておったに過ぎん』

『そ、れは……もちろん四大公爵家の正式なる嫡子で、ジョシュアと1番年が近いからに決まっております』

『ならばロブール家の公女である必要はない。

年の近さなど、大した問題ではない。

四公の嫡子で公女なら、他にもいる。

他を当たれば良かろう。

この婚約は正式に、破棄する』


 とうとう、この者の魔法以外放棄主義が発動したか。

側妃であっても相手にするのが面倒になったのが見て取れる。

まあ、気持ちはわかるが。


『公爵?!

何を申されて……』


 側妃は今更慌てても、もう遅い。


『良かろう』

『陛下?!』

『しかし公爵よ。

愚息は慰謝料を支払うとして、公女との間で話をつけてしまった。

故に、此度は現状維持とせぬか』


 余の言葉に、側妃は安堵した顔つきとなるが、甘い。


『なれど愚息がこれまで周囲と共謀し、四大公爵家の公女を長年貶め続けたのも、事実。

その上で公女は負傷した際、こうして診断書も取り、愚息を許さぬという意志を示した』


 学園の保健医扮する第1王子、レジルスによって書かれた診断書の控えを、懐から出して側妃に見せる。

もちろん名前は偽名を使っておったが、どのみち公女がこれまでの状況も踏まえ、これを公の場で公表すれば、確実に公女側から破棄できよう。


 無才無能やら、教養や学力に問題があるやらと、側妃も含めて周囲は判断しておる。

そう、周囲は。


 余はもちろん、少なくとも四公の当主陣は、ロブール家の気質__興味がある事以外には無頓着で、価値を置かぬ者が多い事、ロブール家当主であるライェビストが、娘に関してこれといった言動をせぬ事から、判断は保留としておる。


 それにあの公女の所属する、従来のDクラスとは不自然な程に好転した、その変化も気になる。


『今後、愚息のせいで何らかの問題が1つでも出れば、破棄を受け入れよう』

『そんな……』

『ロブール公爵よ、構わぬな』


 苦々しい顔つきとなり、抗議の声を上げようとした側妃の言葉を遮って、真っ直ぐに藍色の瞳を見る。


『まあ、それで?』


 ふむ、思っていた通り、どうでも良さそうな口調よ。

この者は完全に面倒になっておる。


 ライェビストは興味など、すっかり失せた様子を醸し出し始めた。

大方、師団長室に戻り、何かしら魔法に没頭しようと考えておるのだろう。


 いかにもな、ロブール家の気質よ。


『……よし、これにて終いだ』

『陛下?!

お考え直し……』


 突如、側妃の姿がかき消え、ライェビストの姿もない。

つくづく面倒になったあの者の、魔法の無駄使いだ。


 シンとする室内に、余のため息だけが響く。


 そして数日後、蠱毒の箱庭の事件が起きた。

学園長と共に謁見した際、愚息は、に蠱毒の箱庭へと入った。


 まさか愚息の側近候補に相応しいと、そう判断せざるを得ぬアッシェ家の三男まで釣れるとは、思わなんだが。


 そうして、今度は王妃と第1王子、騎士団長であるアッシェ公爵が加わった5人で、顔を突き合わせた。

だがここでも側妃は諦め悪く、食い下がりおった。

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