327.亡き友人の弟〜国王side

『父上、急ぎお祖父様に連絡を取って下さい』

「必要ない。

それならあちらで対処するだろう」


 息子の報告を聞き、自らの両親__先代ロブール夫妻が危険だと知っても、返答はそっけないものだ。


 かねてから申請のあった件について、改めて審議するという建前の元、ここを訪れたが、随分と面白い事になったものよ。

息子の方も、まさか余が父親と共に聞いているなどとは、思いもすまい。


 互いの間に置いた通信用魔法具。

丸い魔石をはめこんだ円形の盤だが、魔石が赤子の頭程もあり、それなりに大きい。

ひと昔前は更に大きく、幼児の頭程もあったのだから、随分と改良された。

しかし持ち運びするにはまだまだ不便。


 この大きさの魔石も貴重で、更に魔法具ともなると、相当高額となってしまう。

高位貴族でも、所有している者は相当少ない。


 学園で公衆通信として置いてはいるが、そのせいで使用する者は限られてくる。


『しかしあの女、いえ、ロブール夫人にはお祖母様への明確な殺意がありました。

初級とはいえ、魔法が使えるようになり、魔獣も操っていたように見えました。

危険です』


 あの女、か。

どうやらロブール夫人は息子に見限られたようだ。


 本日の名目となった、余の署名と印をついたばかりの書類を、チラリと見る。


「先代夫人は、心配いらない。

危害を加えようと手を出せば、返り討ちに遭うだけの事」

『しかし……』

「くどい。

放っておけ」

『父上……』


 そのまま我が国最強の魔法師であるライェビスト=ロブールは、通信用魔法具の魔力を遮断した。

魔法師団長専用の執務室が、シンとする。


「良いのか?」

「何に対してだ?

用が済んだなら、そろそろ国王としての執務に戻っては?」


 心底理解できないといった表情で、追い出そうとし始めたライェビストは、相変わらず情緒に欠けておるな。

公の場ではなく、今は亡き友の弟でもあり、即位する前からの付き合い故に、言葉遣いは気にならぬ。


 この者の子供達は2人共、両親を飛び戻り、祖母に似たようだ。

いや、娘の方はやや……そこそこ……かなりの奇抜な発想と行動力があって、中身は親族の誰にも似ておらぬか。


 外見だけなら、ライェビストの兄であり、娘にとっては伯父である、余の亡き友人共々、祖母似だと言えよう。


「そなたの母親が、狙われて危険やもしれぬのであろう?」

「何故?」


 これまた心底理解できない顔だな。

確かにその通りだ。


 先程息子へ告げたように、先代ロブール夫人が狙われたとしても、絶対に無事でいられる確信があるのだ。


 先代ロブール当主が、守っているだけではない。

かの御婦人には、王女が生前に施した絶対的な守護が、未だに生きておるからだ。


 それにしても、と幼い頃よりよく知るこの男を、まじまじと見やる。


 とにかく昔から、魔法以外に興味がない。

唯一、母と兄には幾らかの関心が垣間見えはしたが、成長と共にそれも薄らいでいった。


 余はこの者の兄と年が近かった事もあり、初めは兄が友や側近候補として登城し、他家の公子達と交流を深めておった。

しかし兄は情緒に乏しい弟を、心配したのであろうな。

故にいつからか、弟を連れて登城するようになった。


「ふ」


 おっと、ついあの頃のチマっとした可愛らしい、兄に手を繋がれて歩く男児を思い出して、うっかり笑いが漏れてしまった。

まあ相変わらず、何の反応も寄こさないが。


 魔法が絡まぬと、家族にも興味が薄い。

好きな事以外への、興味関心がほとほと持てない所は、いかにもロブールの気質を継いだ人間と言えよう。


 しかし付き合いが長い故に、わかる。

自分の子供達に関してだけは、情が無いかと言えば、実はそうでもない。

平均的な貴族の親と比べれば、限りなく薄い関心だが。


 そうでなければ魔法を教える上で、幼い年齢の息子に治癒魔法を、自ら教えたりはしない。

正直、魔法の知識の無い子供に、集中力と想像力が物を言う、その手の魔法を教えるのは、かなり面倒なのだ。

魔力制御も未熟故に、針の穴に糸を通すような魔力調整を行なっていると、魔力暴走を引き起こす事もある。


 その上、先代夫人が先代当主に頼んで厳命させたとはいえ、月に1度だけでも家族揃って夕食を取る?

この男を知る余としては、長年続いているだけで驚きよ。


 それに娘の婚約破棄を、余に進言するとは思いもよらなんだ。

やるならば、次期当主である息子の方が動くと思っておったのだ。

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