316.馬鹿な小娘〜ルシアナside
『魔法?!』
振り向きざまに、指輪を得てから初めての火球を飛ばせば、発動した!
息子の声に、気分は更に高揚する。
けれど業火をイメージしたのに、出てきた魔法は初歩中の初歩の火球。
威力の低さに、自分でも驚いてしまった。
でもあの驚きの声で、虚をつけたと確信する!
傲慢な息子に、火傷の1つくらいなら負わせられたはず!
口元が弛むも、間違いに気づく。
息子の実力がずっと高く、魔法で障壁を一瞬で作り出すなんて!
処分どころか傷1つ、つけられないじゃない!
そう悟ると同時に、捕まると覚悟した。
その時、脇道から強い風が吹いて、霧散しかけた炎を煽り、障壁に沿って炎幕を作り出した。
『夫人!
手を!』
突然脇道に現れた小娘は、小声でそう言って手を差し出す。
かと思えば、誰だと問う前に勢いよく近寄って、勝手に手を取る。
静かにしろと言うように、口元に人差し指を当て……何を考えているの?!
そのまま奥の突き当りまで、手を取った私を連れて、引きずるように進む。
抵抗しようにも、久しぶりに何度も魔法を使ったせいか、体にうまく力が入らない。
そうして壁際にやった私の両肩を掴み、しゃがめと下に押し下げる。
急な展開についていけず、もうどうにでもなれと腹をくくって指示に従えば、小娘は両肩を私の肩に置いたまま、私を隠すようにして、息子に背を向けたまま、立つ。
一瞬、息子と目が合ったような気がして、諦めから、ため息を吐きそうになった。
『チッ、どこに……』
けれど息子はそのまま辺りを見回し、忌々しそうに舌打ち?!
ガラが悪くなっていない?!
そのまま私が逃げようとした、細い脇道を走って行った。
「ロブール公女と話す席を、本当に設けていただけるんですよね?」
そういえば、目の前にいたわね。
物思いから、ハタと脱する。
「そうよ。
娘の我が儘で公子に迷惑をかけたのでしょう?
母親ですもの、正してあげないと」
「ああ……ありがとうございます!」
何度目かの問いにうんざりしつつ、同じ答えを返せば、嬉しそうに頭を下げる。
馬鹿な小娘。
聖獣の加護を受けたからといって、四公の当主の決定を覆す?
身のほど知らずだこと。
そもそも公子の除籍決定が、簡単にできたとでも思っているのかしら。
あの出来損ないが公女として望んでも、そうなるはずがない。
それ以外の要因があったからに決まっている。
その上、相手はあのアッシェ家の当主。
四公の中でも、融通が利かない男よ。
元公子の身分を戻す……ふふふ、笑ってしまいそう。
あの出来損ないが願っても、不可能に決まっている。
横目に見れば、相変わらずおどおどして、こちらを全く見ない。
そんなだから、誰を信用すべきか判断できないのね。
「ねえ」
「は、はい!」
「あなたみたいに加護を与えられた人間でも、聖獣には会えないものなの?」
こんな小娘に加護を与えるくらいなら、私に与えるように話せないかしらと、尋ねてみる。
「あの……はい。
お話ししたように、本当は私が聖獣と契約しようとしていたんです。
そうしたら誰が何を言っても、ヘイン様の身分を回復させられるかもしれないし、そうでないなら……」
不意に言葉を区切って、ポッと頬を染めた。
いきなり何?
「いっそ私と形だけでも婚姻してしまえば、貴族籍に入れます」
「まあ……確かに聖獣の契約者なら、婚姻の相手は自由に選べるかもしれないわね」
稀代の悪女が没した後、聖獣の契約者はいない。
その配偶者ともなれば、様々な思惑が交錯する。
平民落ちした元公子なんて厄介な存在なら、籍を入れる前に、どこかの権力者達が消しにかかる。
私が逃げた元婚約者を、その駆け落ち相手ごと消そうと探していた時以上の数の人間がね。
「もちろん私なんかの配偶者なんて、お嫌でしょう。
でも平民の暮らしより、ずっといいはずです。
だから聖獣を探して……気配を濃く感じた時は、追いかけたりも……。
その時、ロブール公女とお会いして……。
けど……あまりにも……衝撃的な……私ではきっと、話が通じないような……ビョンビョンして、私に全く興味を持っていたたけないし……」
ビョンビョンて何?
さっきからおかしな思考回路しているし、この子、頭大丈夫なの?
「まあ、あの出来……コホン。
娘は人の話を全く聞かないから、私を頼って正解よ。
娘は彼と外で会う事もあるのでしょう?」
「……はい。
この近くの邸にお入りになるのを見た事が……」
「あなたの能力で待ち伏せして、不意をついて馬車に引きこみましょう」
出来損ないは生活魔法くらいしか使えない。
指輪の力でありったけの魔法を、ぶつけてやる。
※※後書き※※
いつもご覧いただきありがとうございます。
フォローやレビュー、応援、感想にやる気スイッチ押されてます。
昨日の投稿やお知らせ記事で報告したように、書籍化となり7/10発売予定です。
皆様のお陰です。
心よりお礼申し上げます。
書籍化に伴い、タイトルを変更致します。
急に変更すると戸惑われる方もいるかと思うので、鬱陶しいかもしれませんが、1週間程後書きを設けてお知らせを続けてから、来週末に変更したいと思いますので、お付き合い下さいm(_ _)m
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