301.怒り心頭〜ルシアナside
「使えない」
忌々しさにギリリと歯を食いしばる。
昨日はわざわざ郊外の別邸に赴いたというのに、いつまでもエントランスホールで待機させられた。
それも邸の管理権限は次期当主にあるから、連絡が取れるまで中に入れられないなんて、何様よ!!
私はロブール公爵夫人なのよ!!
その上……。
『次期当主として、邸の管理者として、貴女がロブール公爵家に害悪しかもたらさないと判断した。
二度とここへ来る事も、私とラビアンジェの母と名乗る事も許さない。
これまでロブール公爵家の
それに加え、邸の管理監督不行き届きも甚だしいほど残念なものだった。
全ての判断は、現当主より追って知らせがあるだろうが、今は早々に自分の部屋へ戻れ』
ミハイル……次期当主だからと私に命令して、殺気まで!!
もうあんなのは、息子でも何でもない!
その上現当主からの知らせ?!
これまで家庭を一切顧みず、私とも義務以外の何物でもないとばかりに、2人の子供をもうけた後は放置した。
女としても屈辱でしかなかったわ。
なのに今更何がしたいのか、意味がわからない。
『お前も別段、兄ではない私に、何かしらを望んではいないだろう。
子供達が成長するまでの間、ロブール公爵夫人としての義務を果たしてくれれば良い。
子供達が成長した時、それ以降の待遇は考える』
兄よりも冷たい印象を与える、けれど綺麗な顔だと思った。
初めてあの男と顔を合わせたのは、ずっと婚約者として接していたあの男が平民女と駆け落ちしてからだった。
あと少しで婚姻という直前の出来事に、目の前が真っ暗になったのを、昨日の事のように覚えている。
平民女との仲は、義父となった叔父様から聞かされていた。
だから婚姻後の憂いを絶とうと、あの女を名実共に消す段取りをつけたのに、失敗し、婚約者を唆して駆け落ちさせた、顔もしらないあの女が憎かった。
互いに愛など無い。
あくまで私が愛していたのは、婚約者。
なのに籍を入れたのは、彼の弟。
なんて皮肉で、自分が憐れで仕方ない。
それでもお母様に言われるがまま、弟の方と婚姻を結んだ。
その日は、お母様が喜んでくれていたから我慢できた。
ただ、お母様は私ではなく、お義父様にずっと話しかけていたから寂しかった。
子供は必要最低限の行為で、すぐにできた。
『この素晴らしい金髪はともかく、お前と同じ瞳の色は不要よ。
次はソビエッシュ様の金髪に、ロブール家の金緑色の瞳を持った男児を産みなさい』
けれどお母様は産まれた子供を見て、冷たくそう言い放った。
だから頑張ったのに……あんな出来損ないが産まれるなんて。
結局あの後、叔母様は私とお母様を引き離した。
挙げ句お父様に手を回し、僻地に幽閉されたお母様と私は、二度と会えないまま、お母様は亡くなってしまった。
酷すぎる!
だから叔母様夫婦の事も、そして叔母様と、そして愛しかった婚約者と瓜二つのラビアンジェの事も、許さない!
__ガシャン!!
やっと通された
__ピッ。
跳ね返った硝子の欠片が頬をかすめ、ピリ、とした痛みが走る。
けれどそんなのは、怒りの前で大した痛みに感じない。
今でもせめてラビアンジェが、お義父様の色を持っていたらと、強く思う。
あんなのが存在しているなんて、許せない!
そうよ、あんなのは消えてしまえば良い。
「消えろ!
出来損ないは消えて、無かった事になればいいのよ!」
更にポットも投げつけた。
その時……。
「ロブール夫人」
不意にローブ姿の何者かが現れた。
「……チッ。
不法侵入ね」
今は全ての者が忌々しい。
「そんなに怒らないで。
ほら、美しい顔に傷がついてる」
そう言ってローブから華奢で、冷たい手が伸びて頬の傷に触れた。
途端にピリリとした痛みが消え、荒れ狂う怒りが僅かに凪ぐ。
この女は私に義娘、シエナの除籍と追放処分を教え、あの出来損ないを排除するだけでなく、私の物だった権限を戻す方法をある日教えに来た。
可愛がってあげていた、シエナの親友だったらしい。
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