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275.白と黒の世界〜教皇side
「今すぐ僕達への命令も、そのふざけた魔法も解除して!
王族らしい扱いなんて一度もされてこなかったじゃないか!
ベルが義務なんて負わなくていい!
こんな国、もう無くなっちゃえばいいんだ!
だから……だから……」
そう言って宙に浮きながら、必死に止めようとする小さな九尾の白い狐に向かって、姫様は微笑んだ。
「初めての命令が、こんなのでごめんね、キャス。
でも王族だからじゃないよ」
少しの時間、姫様から離れていただけだった。
なのに長かったはずの、銀の混ざった白に近い薄桃色の髪が、肩まで短くなっていて……どうしてかこんな……。
顔を腫らして隅っこで泣きながら丸くなっている、あいつが
それともそれ以外の、姫様に悪態ついたり傍観ばかりしていた、ここにいる人達?
それとも…………あの女?
(ねえ、姫様……)
「聖獣の契約者だから。
君達の主である事が、私のたった1つの矜持で、喜びだったから。
大丈夫、また逢える。
絶対逢いに戻ってくるから、今は逝かせて。
愛してる……キャスケット、ラグォンドル。
いつかこの国に戻って来るよ。
その時は私を見つけて。
次は穏やかに、何にも縛られずに、一生一緒に……笑って暮らしたいな。
だからそれまで、いつか私達が再会するこの
お願い」
己の聖獣に向ける微笑みも、藍に金環を浮かべた瞳も穏やかで。
ただ、それが自分に向けられたものではない事が……寂しかった。
(そう、寂しかった……だから姫様……こっちを見てよ……ううん、見なくていい……いいから、だから……)
屋根が消し飛んで、顕になった空から注ぐ朝日。
清々しい陽光に照らされた、華奢な体の目に触れる至る所には、清々しさとは対極にある、禍々しい赤黒い呪印。
今もなお火で炙るかのようにして、それは肉を焼きながら刻印されていく。
かと思えば、それよりも早く、白銀の炎が刻印を上書きするようにして聖印を焼き刻み始めた。
見るからに痛々しくて、体も震えている。
きっと立っていられるのも不思議なくらい、壮絶な痛みに耐えている。
なのに姫様が纏う空気は静かで。
そんな状態なのに綺麗だと感じさせる程、清廉で神々しい。
やがて全身が白銀に輝いたように燃え光ったかと思うと、輪郭が揺らぐ。
__バサッ。
と思った瞬間、前ぶれもなく小さくな体は一瞬にして消え、真っ白な灰の山ができた。
「ベル!
ぁ……ベル……馬鹿、だよ……何でこんな。
待って!
ベル、ベルジャンヌ……駄目だ、駄目!
置いて逝かないでよ!」
白い聖獣が小さな灰山に飛び寄ろうとして止まり、藍に金の散る瞳からポロポロと涙を溢しながら、まるでそこに姫様が居るかのように喋りかけた。
かと思うと、追いかけるように踵を返してかき消えてしまう。
「……ベル……ジャン、ヌ……様……」
のろのろと力なく灰山に歩み寄ろうとしたのは、姫様にただ守られていただけの、桃金の髪の少女。
その顔は絶望に打ちひしがれ、ぼろぼろと涙を流していた。
しかし白灰の真上に青銀の竜が浮かぶと、歩を止める。
竜は狐と同じ色合いの瞳から、涙を一筋流す。
伝い落ちた滴は下に辿り着く前に、水の玉となって白灰を包み、竜共々ふっと消えてしまう。
(ああ……色が……)
清々しいはずの朝日も、真っ青なはずの空も、照らされているはずの幾人かの者達も、この世界の全てが自分の中から瞬く間に色を喪くしていった。
__コンコン。
部屋をノックする音が遠くで聞こえ、意識が浮上するのを感じる。
「……姫様」
自らの声に目を開ければ、見知った部屋に1人いた。
__コンコン。
再びノックの音がして、暫しの間の後にドアが開き、亜麻色の髪に碧眼
「教皇猊下、お目覚めになってくだ……おはようございます」
既にソファに腰かけていたから、起きていると思われたのだろう。
白い法衣に身を包んだ、白と黒以外に色の無い世界の住人は、微笑みながら朝の挨拶をしてくる。
「ああ、おはよう」
いつもの色も味気もない1日が始まった。
※※後書き※※
お待たせしました、本日より新章開始です。
お待ち頂いた方も、たまたま目にした方も、お付き合いいただけると嬉しいです。
暫くは毎日お昼頃に更新できると思います。
こちらも本日より更新再開しております。
【秘密多め令嬢の自由でデンジャラスな生活〜魔力0、超虚弱体質、たまに白い獣で大冒険して、溺愛されてる話】
https://kakuyomu.jp/works/16816452221256195664
こちらは明日で章完結予定の作品です。
【太夫→傾国の娼妓からの、やり手爺→今世は悪妃の称号ご拝命〜数打ち妃は悪女の巣窟(後宮)を謳歌する】
https://kakuyomu.jp/works/16817330649385028056
よろしければご覧下さいm(_ _)m
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